古着の子

metayuki
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ベネディクト・カンバーバッチ版のドラマ『シャーロック』で「古い服だ。3年は着てる」といったような台詞があった。正確な台詞は記録していないのだけど、「買って3年過ぎたら古い服なのか!」と驚いたことはしっかり記憶している。おかげで自分の手持ちの服のほぼすべてが「古い服」になった。

気にし過ぎであることはわかっているけれど、思いがけない言葉が尾を引く、という現象はよくある。我が家ではそうした現象を指して「呪い」と呼ぶ。

今日、ずいぶん前に買ったニットを引っ張り出してきて(寒いのだ)、毛玉がちょこちょことついていたので指先でつまんだ。デザインが好きなので、古ぼけたとしても着たいなという気持ちがあり、身に着けて鏡の前に立ってみて「あ、古着っぽいな、いいじゃん」とポジティブにとらえた直後、「いや、ぽい、じゃなくて古着だから」と自ら赤字を入れた。

高校時代、部活が終わって日が暮れたあとに自転車で帰っている途中、原付きに乗ったヤンキーたちにカツアゲされかけたことがある。僕の通っていた高校は山の上にあり、帰り道はほぼ下り坂だったので、のらりくらりと下り坂手前まで来たあたりで全力で坂をおりていった。ヤンキーたちは原付き3台で、うち2台は2ケツだった。そうなると、自転車で滑走するほうが速い。怒号を背後に聞きながら、暗い道をブレーキもかけずにおりていった。いま思うと事故らなくてラッキーだった。

学校からかなり離れた古着屋までとにかく自転車を漕いで、無事に逃げ切ることができた。その店の常連でもなんでもなかったけど、生まれたばかりの動物が最初に目を合わせた相手を親と思い込むみたいに、古着屋のあかりが、なんだか救世主のように思えた。

話は(ふたたび)変わるけど、学生と「自分ち独自のルール」について話しているときに「うちはちょっとでも汚れた服は捨てます」と言われて、のけぞったことがある。お母さんがアパレル系で働いているとかで、洋服やおしゃれについては一家言ある家庭、とのことだった。ほんとうに、世の中にはいろんな人がいて、いろんな家がある。僕なんか、ちょっとくらいの汚れものならば(と書くとミスチルが歌いだすのだけど)、どうにか落としたり隠したりして着続けるわけだけれど、シャーロックならその汚れについても一目で分析してしまうだろう。「きみ、いつまでそんなの着るつもりだ? 自分の失敗を喧伝して歩いてるようなものだぞ」とかなんとか。返す言葉もないけれど、着替える新品もない。

@metayuki
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