変な声

metayuki
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自分の声が好きではない。

そういう人は多いんじゃないかと思っている。「自分の声」とは、つまり、普段自分で聞いているやつじゃなく、動画やなんかで聞く自分の声という意味で、誰だって「これが私の声なのか」という違和感を持ち、「思ってたのと違う」からの「好きになれない」ルートを辿るのではないか。

と思っていたけど、もうそんなこともないのだろう。誰だって自分の声を簡単に聞けるようになった。「普段聞こえてるのと違う」という違和感も、今ではわずかな段差でしかなくて、簡単に乗り越えられる。

それだけじゃなくて、これは勝手な推測だけど、「変な声」という認識というか形容というか、そういったものが世間から消えつつあるのかもしれない。声優が表舞台に出てくるようになって久しく、どんな声にも「力」が備わっていることがあたりまえの事実として受け止められるようになった。その結果、だれかの声を指して「変な声」と揶揄することがなくなったのではないか。

そういった変化は各方面で起こっていて、旧来的な価値観で「あれが変」「これが変」と縛りつけられていたものが減っている。そのぶん新たに窮屈になったものも数多あるので、楽観的に現状を歓迎するものではないけれど、でも、世のなか悪いことばかりじゃないぜ、と考える根拠にはなるだろう。

といったことを書いたあとで、ネットをちらほらと検索してまわったら、自分の声に対する違和感解消法として「慣れましょう」というアドバイスがあった。だよね、つまりはそれだよね。

あれはたしかミュージックステーションだったと記憶しているのだけれど、GRAPEVINEが珍しく地上波に出演して、同じ日に出演していた女性がGRAPEVINEのファンなんですと話しており、その理由として「ボーカルの声がすごく個性的で、その声になりたいくらい好き」とコメントしていた。

ボーカルについて何かを語るほど知識はないけれど、そのコメントはすごくいいなと思った。決して「美しい声」ではないのだけれど、でも、このひとにしか出せない歌声であることは間違いなくて、考えてみれば人気のあるボーカルってあたりまえのようにそうだ。声質についてろくに考えることもなかった僕にとっては、いわゆる、目の覚める経験となった。気づくの遅いよと自分でも呆れるが、気づかないままよりずっといい。

@metayuki
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