仕事の打合せをするなかで「独自性」の対語を考える場面に出くわし、早押しクイズの回答席に座った気分で大急ぎでひねりだそうとしたけれど、なかなかしっくりくる言葉が出てくれなくて、宿題となってしまった。
言葉だけで考えるなら「独自性」の反対は「凡庸性」だったりする。でもその仕事で求められているのは語義的な対称性じゃなくて、「独自性」と対に読めるんだけど、対極にあるというよりは別ベクトルで同等の価値を持っているような、といったニュアンスの言葉だったので、うーん、難しい。
独自性といえばオリジナリティ。オリジナリティといえば、オリジン弁当のことを思い出す。新宿の端っこに住んでいたころ、近所のオリジン弁当をちょくちょく利用していた。場所柄もあってか、外国籍っぽい店員さんが多くて、レジと厨房でよく大声で喧嘩してた。客が待っていることなんて気にもかけずにぎゃあぎゃあと罵り合って、怖いよ、と思いながらもナス味噌炒め弁当が好きだから通った思い出。日本ではなかなか目にする機会のない光景だけど、海外では珍しくもないのかもしれない。実際、外国を旅行中に店員が客前で喧嘩する場面も、店員が客に喧嘩をふっかける場面も、目撃したことがある。ひょっとして、こっちが「喧嘩」と誤解しているのかもしれない。彼らにとってはあの調子のやりとりがニュートラル、という可能性もある。おおいにある。
新宿時代で思い出したのだけれど、新宿御苑駅近くの歯医者に何度か通った。どうしてそこを選んだのかはおぼえていない。ネットで調べたのか、通勤路で見かけたからそこにしたのか。雑居ビルの2階か3階にあった。薄暗い階段をのぼらねばならなかった。あのあたりのビルはそんなのばっかりだった。診察室に通されると、やはり薄暗い部屋に診察台がひとつあって、妙にガランとしていた。男性の歯科医師がひとりで対応してくれて、歯科衛生士の姿はなかった。いや絶対ここ、闇医者やってますよね? 銃で撃たれた人物が夜中にやってきますよね? そんで先生もめんどくさそうな態度で手早く処置を済ませて、現金受け取りますよね? 診察室で一服しながら「まいど」とだけ言って、余計な詮索とかしませんよね? 妄想がひろがるったら、ありゃしない。
実際、あんな歯医者は他に知らない。診察台がひとつしか置かれてなくて、そういえば待合室にほかの患者の姿もなかった。昔話だったら狸に化かされていたってオチになりそうな空間だったけど、新宿という場所柄、闇医者方面に妄想がひろがった。
そういえば当時住んでたアパートの隣室の女性が玄関あけて男性と喧嘩してて、「殺せよ!」と挑発してたのもいい思い出。もちろん手に刃物。新宿っぽいなあ。凡庸性とはほどとおい。