お肉と異音

metayuki
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とてもひさしぶりに焼き肉食べ放題の店に行った。2ヶ月分くらいの肉を食べた気がするけど、幸い、胃もたれはしなかった。米をひとくちも食べなかったからだろうか。

若いころからあまり食べるほうではなかった、と書くと嘘になる。中学生あたりはけっこう食べていた。学校から帰って冷凍のピザを2枚くらい食べるとかしてた。高校生になると部活で帰りが遅かったので、そこまで食べなかった。痩せてはいなかった。中肉中背といったところ。

実家に暮らしているころは、あまり外食もしなかった。ラーメンも焼き肉も、外で食べることはまずなかった。ラーメンは出前で食べることが年に一度あるかどうかというところ。カップラーメンは大人になるまでほとんど食べたことがなかった。焼肉屋に関してはほんとに行ったことがなくて、小学1年か2年のころに車のディーラーだかに家族で寄った折に、焼肉屋のチケットをもらって、帰り道にその店で食べたというのがあった。記憶にあるのはその一度くらいだ。そもそも焼肉屋がなかったのかもしれない。

大学生になっても、あまり外食らしい外食はしなかった。友達付き合いが少なかったせいもあるだろうし、単に金がないという理由もあった。社会人になってからは外食の機会も増えた。爆発的、といってもいいくらいに増えた。焼肉屋に行くようになったのは、東京で働きだしてからなので、二十代も後半のことだ。そのころもお金はなかったけれど(給料がアレだったので)、牛角は安かった。ひとつの季節に一回くらい、行った。九州から友達がやってきたときには奮発して叙々苑に行った。店の中にちいさな滝が流れて、ステージでハープの生演奏がくりひろげられていた。金額的にもだけど、ジャズが流れる牛角のほうが落ち着いて焼けた。

そのころ知ったことがあって、僕は大量の肉を食べると、肩のあたりから異音が出る体質だった。なにか、キュルキュル、といったような音が鳴るのだ。そこに消化器が存在しているかのように。まさかそんなはずはないのだけれど、何度か繰り返すうちに因果関係があるとしか思えなくなり、なんなら、焼肉屋に行ったあとはキュルキュル鳴り出すのを待ち構える気にもなった。

僕の父はまぶたの上から目玉をぐりぐり動かすと、キュッ、キュッ、と小動物の鳴き声めいた音が鳴る。子供の頃からその様子を見て、音も聞いていたので、人間は奇妙な音を出すものだという認識があった。おかげで自分の肩あたりのキュルキュルもあっさり受け入れることができた。

今回、食べ放題で肉を大量に食らったけれど、キュルキュルは鳴らなかった。ひさしく聞いていないので、もうその部位は衰退してしまったのかもしれない。あるいは僕の体には宇宙人による機材の埋め込みが行われていて、僕の知らぬ間に宇宙人たちがその機材を回収していったのかもしれない。

@metayuki
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