慾望

metayuki
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広告制作会社に勤務していたころ、流通の仕事を長く担当していた。いわゆるデパート・百貨店のあれこれをつくるのだけど、年末の大仕事として福袋関連のものがあった。初売りの福袋は一年のなかでトップを争う商材で、各売場のバイヤーさんたちの熱の入れようもすごかった。僕が子供のころには「福袋なんて売れ残りを詰め込んだだけでしょ」という向きもあったと思うのだけど、21世紀に入ってからはそんなことはなかったようで、早め早めの時期から「これは福袋用に」と好適な商品を仕込むのがあたりまえになっていた。福袋商戦の最盛期には、高額福袋みたいなものも乱立して、車1台とか家1軒みたいな極端なものも出ていた。袋に入ってたらおもしろかったけど、そんなことはなかった。ちぇ。

だが、しかし、僕は福袋を買ったことがない。当時も、今も、買ったことがない人生である。厳密には1度買ったことがあるものの、自分の意志ではなかったのでノーカウントとさせていただく。

世の中はどんなものだろう。福袋を買う、買った経験がある、という人はどのくらいいるのだろう。そう思って検索してみたら「買ったことない」という意見がずらずらと並んだ。仕事ですごい売れ行きを目の当たりにしていたから、もっと多くの人が購入経験あるのかと思ってたけど、そうでもないらしい。

福袋に限らず、自分の興味ないもの、買ったことないもの、食べたことないものであっても、広告となれば個人的な価値観で考えてはいけない。という話は前にも書いた気がする。それとも学校の授業で話したか。

就職してすぐのころに大先輩から言われたことのひとつが「まずはその商品を好きになれ」というものだった。きっと同業者はみんな言われたやつ。あと、客目線・ユーザ目線で考えることとか、まあ、いろいろ。

子が宿題で修学旅行の絵日記を書かなくてはならないらしく、自分のときは壁新聞だったな、と思い出した。修学旅行のために組まれた班のメンバーで、旅行後に壁新聞を書き、校内に張り出すのが恒例だった。僕の属していた班では新聞の編集方針を「後輩たちが知りたいことを網羅する」ということに決め、「おまえらがやりたいことできるかどうか全部レポートしてやる」という意気込みを表現すべく、新聞名を「欲望」とした。先生に注意され、改題させられた。まあ、うん、まあ。

こうして思い返してみると、「欲望」は公的な場にはふさわしくないかもしれないけれど、修学旅行を一年後に控えた後輩たち=客の目線に立った、いい題名だ。なんなら「慾望」としてもいい。そっちのほうが見映えがよさそうだ。

近年は初売りとか福袋とかも、あまり盛り上がっている印象がない。人々の欲望の向かう先が買い物や消費ではなくなってきているのだろう。浅い分析だけど、そう思う。いまの主流(に見える)の欲望は、どうやって負かすか、というところに傾いていて、どうやって勝つか、よりもたちが悪い。たちが悪い、と打ちながら浮かんできたのは舘ひろしで、ちがうよ、ごめんなさい、舘は悪くない、悪くないから。

@metayuki
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