世界の歴史と進化論

metayuki
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漫画『日本の歴史』『世界の歴史』が我が家にそろっているのだけれど、なんとなく読まずにいた。あれは「漫画」といいつつ、やはり、一般の漫画を読むようにはページをめくれないし、駆け足で歴史を辿るぞ、というつもりでいてもいちいち足踏みしていかなくては咀嚼できない代物だとわかっているので、躊躇していた。

それが先日のこと、ふとした気持ちで『世界の歴史』の第一巻を手に取り、読み始めた。予想どおり、なかなか進まない。これはなんだっけ、あれとどうつながってるんだっけ、と、忘れてしまった知識を拾いに行かなくちゃいけない場面も多く、知的ビーチフラッグスを延々やってる気分になった。あるいは、あれ、ちりばめられた点を線で結んで絵を浮かび上がらせるやつ。

世界史の始まりは四大文明やら宗教の成り立ちやら、あと哲学の話題が多い。この世についてまだなにもわからないなか、人々が素描を試みるように、ああではないか、こうではないかと思索を巡らせ、深めていく様は興味深い。そして宗教も哲学もその多くが「こうだからこうに違いない」もしくは「こうであってくれればいいな」といった願望に近いところで形成されていく。そんな都合のいい考え方で大丈夫? と、現代を生きる身からは思ってしまう。でもこれは漫画に落とし込むための単純化、戯画化もほどこされているし、それに、科学もろくに芽生えていなかった時代に思索でどうにか世界をつかんでやろうというのだから、「大丈夫?」なんて傲慢な目線は取っ払って、この時代、この考えを持ち出すことがどれだけすごいことだったのか、について考えたほうがいい。

話はちょっと変わるのだけれど、前に、講座受講生の方が紹介されていた『ダーウィンの呪い』という新書をちょっとずつ読んでいる、このごろ。これは、いまの人たちが持っている「進化(進化論)」のイメージって、ダーウィンが提唱したことと違うよ、という内容で、たとえば優生思想の話題なんかも、進化論を都合よく解釈した結果として出てきたんだぜ、といったことが書かれている。「適者生存」とかみんな知った顔でいうけど、ダーウィンはそんなこと言ってないんだぜ、とか。いや、べつにダーウィンの言葉が絶対正しい、絶対正義とかってことではない。ダーウィンと違うことを言ったって構わないのだけれど、でも、ちゃんと始まりを調べもせずに、誰かが明文化した「ダーウィンはこう言った(だからこれは正しい)」という言説を鵜呑みにするな、という話だ。

で、なんだっけ。

そうそう。進化論を自分なりに解釈したり、自分の論理を正当化するために利用したりとかって人たちが大勢いた、その顛末を読むにつけ、『世界の歴史』で感じたことと同じ印象が募ってくる。そして、怖いな、と思わせられるのは、これが四大文明の時代とか、進化論の話題とかでなく、現代社会にもぴたりと接続してくるところだ。

たとえばこんな一文があった。

「科学的事実から政策を正当化できないとき、政策を正当化できるよう科学的事実のほうを捻じ曲げたのである。」

ははは。最近の報道記事の一文すかね。だけどそうじゃない。

と冷笑的なコメントを書いてみたけど、誰がこの事態を冷笑できるのか。

上の引用文は何十年も昔の出来事についての説明だ。

古代の哲学者も神学者も宗教家も開祖の皆々様だって、事実のほうを捻じ曲げたことに違いはない。現実の辛さを乗り越えるために視点を変えた。正しいかどうかよりも、そう考えることで心が励まされるかどうか。それか、敵をぶっつぶせるかどうか。

やあ。なにも考えずに書いてきたものだから、着地点が見いだせない。こういうときこそ誰か訪ねてきてほしい。

「呼びましたか?」

「あ、呼びました呼びました」

「なんの御用でしょうか」

「着地点、注文したんですけど」

「じゃ、こちらへどうぞ」

「ありがとうございます」

「ここにAとBの壁があります。どちらもやわらかい素材でできているので、助走をつけて思いっきり飛び込んでください」

「どっちかの向こう側が泥水になってるとかですか?」

「いえ、これは正解がある話題じゃないので」

「飛び込んだらどうなるんですか」

「着地点があります。でも、いったん飛び込んで着地したら、こちら側にはもう戻ってこれません」

「はい?」

「着地したら、そこからまた歩きだしてください。いいですね?」

「いや、そんないきなり」

「ここでじっと待機されていてもいいですけど、ぜんぶのリンゴが腐っていきますよ」

「なんですかその呪い」

「ですからどちらかを選んでください。じゃ、そろそろ行きましょう」

「ちょっと待ってくださいよ、せめてなんの選択なのか教えてください。二択問題ってことですよね?」

「はい。AかBか、どちらかです」

「だからそのAとBが意味するところはなんですか?」

「AはA、BはBです。そろそろお時間です。それでは、はりきってどうぞ」

@metayuki
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