魔の加減

metayuki
·

会社経費で買った品を、自腹で購入したのだと主張して、我が物にしようと試みた人の話を聞いた。その話題に至るまでの経緯があって、詳細は省くのだけれど、ふつうに「それはないだろ」と思った。

多くの人の目に「それはないだろ」と思われる行為があり、そうした行為におよびがちな人がいる。だがしかし、他の人から見れば僕の行為のなかにも「それはないだろ」と非難されてしかるべきものもあるだろうから、その手の話を聞いたときには他山の石とするしかない。

と、落ち着いて語れるときはいいのだけど、自分が当事者で、立腹しているときには、他山の石なんかハンマーで叩き割っちまえ、と憤るだろう。人間、おだやかなままではいられないのだ。

東京で働いていた時期の話で、すごく仕事のできる女性がいて、言葉の運びも常に理性的だし、接客業に従事していることもあって身だしなみも完璧だった。才色兼備という言葉の横に立っていただいても見映えがするだろう、といった雰囲気があった。歳は僕より若く、当時まだ二十代だったのではないだろうか。ある日、その人物が上司を悪し様に罵る文書を社内に一斉送信した。結果、彼女は辞職することとなった。この一件には色恋も絡んでいたそうで、昨日書いたことと似た話になるのだけれど、僕は詳細を知らず、まさかあの人がそんなことをするなんて、という驚きに打ちのめされた。

褒められた行為ではなくても、そのときの衝動でやっちまうことは誰にでもある。大なり小なり、という注釈は必要かもしれないけれど。

これもけっこう前の話になる。代理店の営業で、めちゃくちゃに有能と周囲から評される人物がいて、その方が夫婦喧嘩したときに奥さんから携帯を破壊されたそうだ。本人ではなく別の方から聞いた。

「カミさんが携帯を奪って、道路に置いて、それを自分ちの車で踏みつけて破壊したらしいですよ」

このエピソードは、本人には申し訳ないけど、けっこう好き。スマホ以前の時代で、ふたつおりケータイが主流だった。奥さんは旦那のケータイをひらいた状態で道路に置いて、タイヤでばきばきに破壊した。衝動的というには、ちょっと手間がかかる。一発で破壊できればいいのだけど、夜の住宅街の路上でそううまくいくのだろうか。もし一発できめなかったら、やりなおしが必要になる。そう考えると、ほんとに、ほんとに、腹に据えかねることが原因での喧嘩だったんだろうなと理解できる。

偉そうに人のことばかり書いたけど、僕も頭にきたときは、かなりねちっこいメールを書くことがあった。相手の間違いを指摘して、こちらが正しいのだという主張を延々と書き連ねて、送りつけたことが何度もある。言葉遣いは平静を装っていても、まあ、メール本文スペースが真っ黒、みたいな状況なので、平静でないことはひと目で伝わっただろう。

「ちょっと見てこれ、あの中山からのメール、あいつばっかじゃないの、こんな理詰めで書いて勝った気になってんだろね、あー、やだやだ」

とか言われている場面が容易に想像できる。ごめんなさい。いまそんなことやってたら「論破王」とか揶揄されていただろう。衝動的ではあったけど、その手の文面を用意してるときには、書けば書くほど勢いがついてきて、頭が沸騰してるのです。ケータイを車で破壊するのも、そうだったかな。社内に一斉送信するのも、そんな感じだったのだろうか。魔が差す、では足らずに、魔にとりつかれる、というところだ。

最近はやってない、などと油断していると魔が忍び寄るので、ちゃんと気をつけよう。

@metayuki
書きたいこと好きに書いてるだけの生き物。ときどき創作物が混入します。ハッシュタグでご確認ください。