学生時代、コンビニのアルバイトで、大晦日の深夜シフトに入ったことがある。時給アップを狙ってのことだったけれど、新年を一緒に迎えるような特別な人がいなかった、というのも理由のひとつだった。
僕と、もう一人、同い年の男子大学生がいて、カウントダウンなんてしなかった。深夜を過ぎて、あけましておめでとう、くらいの言葉はかわしたかもしれない。割に仲良しではあった。初詣帰りの客たちがまばらにやってくるので、普段よりもちょっと忙しいくらいだったけれど、仕事は仕事として淡々とこなした。
夜明け前に、早朝勤務のアルバイト女子が出勤してきた。外はまだ暗くて、その時間帯には客も途絶えていた。僕が勤務していたコンビニは店舗内でパンを焼く施設もあり、早朝にはパン担当の中年女性たちがやってきて賑やかになるのが常だった。彼女らは僕たちみたいな腹を空かせた若者に、焼きを失敗したパンを食べさせてくれた。気のいい人ばかりだった。
早朝勤務の女子が制服に着替え、業務開始まであとすこしというタイミングで、パン担当の女性の一人が僕らに「初日の出を見てきたら」と促してくれた。コンビニの入るマンションの最上階まで行けば見れるはずだという。僕と男子大学生とバイト女子の三人は言葉に甘えて、白み始めた空にあわてて店を飛び出し、エレベーターで最上階の廊下へ急いだ。
雑居ビルが立ち並ぶ景色は決して美しくなかったけれど、僕らを照らす朝陽のまぶしさは、すごかった。あ、これは特別な瞬間なんだ、という意識が芽生えた。
男子学生は後日、女子バイトに交際を申し込み、玉砕した。その二人がその後どんなふうに生きているのかは知らない。初日の出について思い出すことがあるだろうか。あるといいな。