真夜中の試着

metayuki
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ZOZOで買い物して、外出しているあいだに宅急便が来ており、不在票に「2020」と書いてあり、ああZOZOか、と思った。ひさしぶりの感覚。

ネット通販を初めて利用したのがいつだったのか、記憶が定かでない。熊本の実家に暮らしていたころだとは思う。よく覚えているのはGravisのスニーカーを買ったことだ。雑誌で見て一目惚れして、熊本ではぜんぜん売っていなかったので、半信半疑、思いきってネットで購入した。どこのサイトを使ったのだっけ。Amazonではなかった気がする。ともあれ、無事に本物が届いてほっとした。

スニーカーといえば、僕らが若いころの思い出として「エアマックス狩り」が想起される。

大学のゼミ旅行で韓国へ行き、その際にゼミ生のひとりが南大門の露店みたいなところで完全にバッタモンでしかないエアマックスを見つけ、格安で買った。で、僕らには絶対ここで買ったことを言うなと箝口令を敷いてきた。言うつもりもなかったけれど、彼が大学で意気揚々とエアマックスを履いているのを見て、ふむ、と思った。

それから少しあとのことだと思う。エアマックスにはぜんぜん惹かれなかった僕だが、赤いソールが目立つハイカットスニーカーのエアジョーダンを店頭て見たときに、なにこれかっこいい! と一目惚れして、買うかどうか散々悩んだ。当時、2万円超えのスニーカーなんて買ったことがなかった。靴だよ? スニーカーだよ? なんでそんな高いの? という疑問が理性党の皆々様から飛んできた。しかし感情党の党首は理性なんてつまらんやつらの雑言は蹴散らせと主張し、脳内攻防戦の末に感情党が勝利をおさめた。

しかし、僕はまったくスポーツと無縁に生きてきたので、エアジョーダンを買ったはいいけれど、それに似合う服をひとつも持ってなかった。あの、ボテッとしたフォルムは、ディズニーキャラクターが履く、でかすぎ靴みたいに周囲からは見えただろう。ま、実際のところ周囲の人は誰も僕の靴になんか興味を持つわけないのだけれど。

Gravisのスニーカーを見たのは、多分、雑誌『spoon.』ではなかったろうか。SILASの服も『spoon.』で知った。大好きだった。

その後、東京に暮らすようになって、代官山のSILASにもちょくちょく行った。妻の働く事務所が代官山にあったので、そのあたりを訪れる口実には事欠かなかった。

妻がファッション誌のデザインを担当しており、SILASのページがまわってきたことがあった。しかもモデルにカヒミ・カリィを起用するという。それだけでも「いいなあ」という案件なのだけれど、ページの企画で「深夜、SILASの店舗に忍び込んだカヒミ・カリィが勝手に試着する」みたいな、おしゃれ泥棒的なものだったので、その撮影、こっそりついていきたかった案件でもある。とても素敵な仕上がりだった。

いつのまにかネット通販が日常になり、服や靴を買うことへの抵抗も減った。抵抗なんてゼロかもしれない。それでもやっぱり、根が一目惚れ気質なので、実店舗で不意に見つけた品に心奪われることのほうがいまだに多い。

偽マックスを買った彼のことを、流行り物が好きなだけのやつ、と当時の僕は認識していた(のは、普段の言動とも関係してのことではある)けれど、でも、あの日、あの露店で、あのデザインにあらためて一目惚れしたのかもしれない。帰国して、夜の自室で履いてみて、うれしくて笑顔を浮かべたかもしれない。そうだったらいいなと、長い時を過ぎたいまになって、初めて考えた。

@metayuki
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