梅と花

metayuki
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6月も折り返し。このひと月あまりは仕事が詰まっていて、いくつかの山を超えたところなのだけれど、そんなわけでからっからの出涸らし状態にある。おかしなもので、子供が体調を崩し、休め休めと言いながら自分にもおなじ言葉を投げるべきではと考えさせられている。休むよりは映画観たりしたいのだけど。

書店に行って、お目当てでもなんでもなかったけれど新刊で並んでいた梅崎春生の作品集『怠惰の美徳』(中公文庫)を買ってきた。ほぼほぼエッセイを集めたような文庫オリジナルで、荻原魚雷さんの編によるもの。ほかに読み中の本があるので真剣に読むというわけにいかず、だけどいくつかタイトルで気になった作品を読んでみて、すごい好きだなとわくわくしてる。手元にその本があるだけで、こんど遊びに行く約束が置いてあるような、そんな気分になれるので幸せなのだろう。

梅崎春生といえば「桜島」で、そういえばちょっと前に読み返したのだった。梅崎春生がいまの世の中でどのくらいの知名度なのかわからない。あんまりメジャーという印象はない。ただ、『怠惰の美徳』の帯には「NHK Eテレで話題」みたいに書かれているので、ちょっとした波が来ているのかもしれない。

とてもひさしぶりに映画館へ足を運ぶことができた。いくつか観たい作品が上映中なのだけれど、時間と場所の都合から『ぼっち・ざ・ろっく!』の劇場総集編を観た。TV版の1〜8話を劇場版として再編集したもので、オープニングとエンディングは新曲が流れ、オープニングは映像も新規のもので、劇中曲もやはり劇場で聴けると印象が変わった。

ややネタバレなのだけれど、ライブハウスの場面で主人公のぼっちちゃんのモノローグを挟んで演奏に入るところがある。その楽曲はYouTubeでもTV版の映像がMV的にアップされていて、そちらでもモノローグから曲へと入る。で、同一の場面が劇場版ではモノローグ無しになっていて、はっ、とした。

もともとぐっとくるシーンなのです。思っていたよりも演奏がうまくいかなくて、お客さんの反応も微妙なもので、このままで終わってしまっては次につながらない、そんな焦燥と怯えがバンドメンバーに広がるなか、もっとも引っ込み思案でネガティブなぼっちちゃんが突然ソロの演奏を始める。それを聴いたメンバーたちが息を合わせて次の曲へとなだれこんでいく。

TV版ではソロ演奏の前にぼっちちゃんの焦りがモノローグで語られていたのだけれど、劇場版では無言のまま演奏に突入する。でも、TV版やYouTubeを何度も視聴したこちらの意識には、ぼっちちゃんがそこでなにを思っているのかが聞こえてくる。彼女の決意が無言の数秒間で伝わってくる。ないものを存在せしめる演出とでもいうか、とてもよかった。

バンドものは最近流行っているのか、アニメだと『ガールズバンドクライ』と『夜のクラゲは泳げない』を、漫画だと『ふつうの軽音部』を追いかけている。好きなのかな。まあ、好きなのだろう。

『ガールズバンドクライ』は、なんとなく観始めて、脚本の花田十輝さんが『宇宙よりも遠い場所』の人だと知って俄然興味が湧いたのだけれど、僕は花田さんのことをぜんぜん知らなくて、ほかにどんな作品を、と調べたら、花田清輝のお孫さんだと知って、そのことにいちばん驚き、惹かれた。

とはいえ花田清輝の著作は、あまり読んだ記憶がない。

ところで花田清輝も梅崎春生も福岡の出身とのこと。ゆかりの場所でもめぐってみようかな。

@metayuki
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