祖母から聞いた話だ。
戦争中に初めての子を妊娠した祖母は、海岸を歩いているときに空襲を報せる鐘の音を聞いた。近くに隠れるところも見当たらなくて、大きなお腹で走るのもままならず、砂浜に仰向けになって自分の手で自分に砂をかけた。あとはもう運を天に任せるほかなかったのだが、これで終わりだという気持ちもあったそうだ。いいかげんに体に砂をまぶし、目をとじて、顔に大量の砂をかけた。戦闘機の飛んでくる音が聞こえ、じっとしていた。すると、ぱさ、ぱさ、と砂をかけられたという。戦闘機の音が近づいてきているので身動きをとれないまま、腕や足に砂がかけられるのをただ感じていたそうだ。
もちろん、祖母は助かった。助かって、男子を産んだ。それが私の父だ。
その話を聞いてからというもの、私は海岸を訪れる機会があると必ず、なにもない砂浜で砂をすくってそのあたりに撒くようにしている。