風吹けば恋

metayuki
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『ペルソナ3』には影時間という設定が用いられていて、深夜、一般の人が感知できない時間が流れている、といったようなもなのだけれど、この手の妄想はきっと多くの人が抱いたことがあるものだろう。かくいう僕も幼いころ、1秒ごとに世界は静止して、1年が過ぎると同時に次の1秒が動き出し、ふたたび1年の静止に突入する、という妄想をくりかえし考えていた。なんだそりゃ、と後年になって自分の馬鹿さ幼さに呆れもしつつ、でもその妄想の根っこはなんだったのかと考えてみれば、曾祖母が亡くなって、死が怖くなって、すこしでも長生きするにはどうすればいいのか悩んだ末に「自分たちが気づかないだけで僕らはみんなすごく長生きなんだ=1秒ごとに1年の時間が追加される」という状況をひねりだしたのだと思い至り、阿呆だけど気持ちはわかる、というあたりに落ち着くようになった。いくら寿命が延びても気づかないままなら意味ないじゃん。そう、そのとおり。

色も、味も、音も、なんとなくみんな同じものとして知覚していると思っているけれど、ほかの人の知覚と自分のそれとは違うかもしれない。これもまたよくある妄想だろう。幼いころにみんなみんな通る道ではないかと思う。通ってないよって人もいるのかもしれない。

恋愛というのも、そうだ。実際のところは、よくわからない。中学生のころ、まわりにぽつぽつと交際をはじめる人々が現れた。思春期まっただなかの生き物として、僕もだれかと交際することを夢見た。ひとり好きな女子がいたのだけれど、その子はあろうことか僕の友人と交際をはじめ、勝手に恋して勝手に失恋するという惨めな末路をたどってしまった。で、そのつぎにどうしたかといえば、好きになれる相手を探しはじめた。これはいけない。どうかしてる。そういう理性が働けばよかったけど、理性のターンはもっとあとだった。で、ふたりの候補をあげた。いやもう、自分で書いていても気持ち悪いのだが、しかし、そうだったのだから仕方ない。背中に悪寒がべったりぞわぞわしてる。だけどみんなが言うのです。恋はすばらしいと誰もが歌うのです。だからそうしなくちゃと思いこんでいたのです。

幸いというべきか、その血迷った選択は、あっというまに無しになった。あっというま、というのは嘘かもしれない。しばらくはどちらを好きになるか真剣に悩んでたかもしれない。都合よく忘れてしまった。おぼえているのは、どちらのこともそんなふうには好きになれなかったことで、どちらもただすばらしい人物だった。

もっともらしい結論を引っ張りだすなら、他人のいうことを鵜呑みにしなくてもいいのにってことだろう。恋をしなくちゃいけないなんてことはない。1日が24時間だということを疑ってみたっていい。「食べたことないなんて人生損してる」とかいった言葉に惑わされることもない。無理して飛びついたって、変な表情になって終わりだ。

のちにコピーライターとして働き出した僕は、テレビ局の広告を担当するようになり、毎週のようにドラマのためのキャッチコピーを書いていた。『恋がしたい恋がしたい恋がしたい』という作品を取り扱うことになったとき、「とか思ってないときに始まるのが恋。」というコピー案を出した。採用になったか忘れた。でも中学時代に好きになった人のことを思い出して考案したのは、よくおぼえている。

ところで今回の題名はチャットモンチーの曲から拝借。もう、まさに。

@metayuki
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