焼鳥と王室

metayuki
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ベランダで洗濯物を干していると、汗ばんでくるほどの暑さだった。観測史上いちばん暖かい冬にまた一歩近づいた、という報道の文字を見かけた。

去年の12月に生まれて初めて北海道へ行った。取材仕事のためで、空港から室蘭へ直行し、取材が終わると帰る、という旅程だったので、観光らしいことはほとんどできなかった。せめて地元のおいしいお店でも訪ねてみようと考え、雪が積もる夜のなか、ホテルから十分ほど歩いた地域の焼鳥屋を目指した。あたりをつけていた一軒目では満席で断られ、二軒目でカウンターの一席があいていたので着席できた。

室蘭が焼鳥で有名ということを、この取材旅行まで僕は知らなかった。豚肉を使用するというのは福岡とおなじで、室蘭のほうが味が濃厚だと思った。注文した品はどれもおいしく、普段、ひとりで焼鳥屋に入ることなど絶対にない僕にとっては、格好の思い出になった。

カウンター席で左隣に座っていた男女は、どうやら交際中のふたりで、どちらも学校の先生として働いているらしかった。彼らの座る席がカウンターのいちばん端で、店内でも最も薄暗いポジションだったからか、割に堂々と話しているのだけれども、交わされる言葉のなかには、「学校の近くでは会えないからたいへん」といった発言が何度か挟まれていた。

なにか悪事を働いているのでもないだろうに、周囲の目を気にしなくてはならないというのは、辛いところだろう。

ホテルでうまく眠れず、Netflixで英王室を描いたドラマ『ザ・クラウン』を観た。そこでも立場ゆえ意のままにはふるまうことの許されない人々がいて、王室と焼鳥の味とが思いがけずに結びついてしまうことになったのも、いまはいい思い出であります。

@metayuki
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