福岡国際マラソンが開催されていることをすっかり失念していたため、車で渋滞にはまってしまった。ランナーたちが通過するまで車列がぴたりとも動かない状態になっていた。仕方ない。
僕の父とその友人たちはよくマラソン大会に参加していて、なかでもひとりかふたりがフルマラソンのでかい大会にも出ることがあり、応援がてら、別府とか山口まで家族で遠征した経験が何度かある。
スタートとゴールである競技場で応援するので、ランナーたちが戻ってくるまでの二時間ほどは実に暇だった。ネットもスマホもありゃしない、携帯型ゲームだってなかった。競技場の近くをうろうろ散歩なんかして時間をつぶした。
そんな遠征のうちのひとつで、海辺を訪れたことがある。波打ち際に、海の中へとつづく下り階段があった。僕は小学生にもなっていない、幼いころの記憶で、大人のだれかが「竜宮城につながってるんだよ」と言うのを真に受けた。途端に、海の中へと消えていく階段が怖くなった。
長い距離を走って競技場に戻ってきたランナーが、よぼよぼのおじいさんになっていたりしないか。そんな想像が浮かんで消えなかった。