酔っ払っているときに猫をみかけると追いかける癖があった。若いころの話だ。私は子供のころから猫を飼ってみたくて、だけど賃貸の集合住宅にばかり暮らしていたのでペットを飼うことはかなわず、そのせいで大人になっても野良猫に愛を振りまかずにいれなかった。シラフでも猫に話しかけたり、餌付けを試みたりするのだけれど、ひどく酔ったときには猫を追いかけて抱きつこうとしていたそうだ。自分では記憶にないのだが、何人かにそう指摘されてきたので、嘘ではないのだろう。
ある夜のことだ。深く泥酔していた私は、路上に子猫を見つけて抱きつこうとした。自分ではまるで気づいていなかったのだけれど、走ってくる車の前に飛び出したので、まわりからは死のうとしたのだと思われた。幸い、車の急ブレーキが間に合ってくれて、ケガひとつしなかったのだけれど、そんな危険に直面したことにも気づかなかったどころか、子猫を抱っこしようとして路上に滑り込んだ私は、そのままそこで眠ってしまった。救急車が呼ばれ、気がつくと病院にいた。夜明け前だった。いろんな人からめちゃくちゃに怒られて、もう酒を飲みませんと誓った。
その数日後、出勤するためアパートのドアをあけると、廊下に十匹ほどの猫がいた。びっくりして思わず悲鳴をあげた。猫たちはばらばらに、それぞれの好きな格好で廊下に座っていたり、寝転がっていたりして、私は興奮しながらも仕事へ急ぐため鍵をかけて、猫たちを踏まないよう階段へ向かった。
この話を友人に聞かせると、子猫を助けてくれたことのお礼に来たんじゃないの、と言われたので、その説を信じることにした。
あれ以来、野良猫たちと目が合うようになった気がする。愛されているなんて傲慢なことは思わないけれど、見守ってくれているのかもしれない。私のその考え方に、友人は、酒飲まないか見張られてるんじゃないの、と言った。その説も信じてみることにして、以来、健康に暮らしている。猫を助けたのだか、猫に助けられたのだか。どっちでもいいか。