素材捜索隊

metayuki
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海外の写真集やデザイン関連書籍を多く取り扱っている書店に行った。古い家屋の二階部分を店舗にしたような、ちいさな書店だ。何冊か、気になる本を手にとってページをめくっていると、懐かしい気分になった。

2000年代にはとうぜんインターネットは普及していたのだけれど、欲しい情報を探すのはプールに落ちたおはじきから黄色のものを拾ってくるくらいの難度があった。なんて比喩はどうでもいいとして。

広告制作においては、クライアントへの提案用の「ラフ」をつくる機会も多く、「こんな写真を撮影します」というときに手書きではなく、イメージの近い写真を見つけてくる必要があった。新人デザイナーなんかは大型書店でイメージに近い写真を探すのに一日の大半を過ごしたりしていた。僕もときどき手伝って、雑誌から洋書からなにからなにまでページをめくりまくった。会社にもその手の資料のストックはあったから、まずはそこから確認するのだけれど、先輩方は社内書庫の資料なんてほぼ網羅していて、「そんな写真はない」という判断も速く、ゆえに若手が書店で捜索隊として働く流れになっていた。生き字引、という言葉があるけれど、あの時代、アートディレクターはだいたいみんなそうだった。どこにどんな写真があるのか、頭に叩き込まれていた。どうかしてる。

そのときの経験からなのか、僕は海外の雑誌をながめるのがとても好きになった。自分でアイデア出しをしなくてはならないときも、よく海外の雑誌をめくっていた。ファッション誌が多かった。数ページごとに世界観の違う写真が並んでいて、そのどれにも独自の魅力が宿っているようなやつだ。自分の考えに固執せずにすむので、写真のトーンがかわるとそれに刺激されて脳の新しい領域がういいいいんと稼働しはじめた。

最近はネットでたいていの画像は見つかるし、適当なものを引っ張ってきて加工することだって難しくない。それでもまあ、手間は手間なのだけれど、何千円も使って洋書を購入する必要もないので、トータルで考えればコストはぐんと下がっている。だけど同時に、自分が狙っていないなにかと出会う確率もぐんと下がったな、と思う。年寄りのひがみみたいだな。

ひさしぶりに海外の雑誌をめくりながら、ああ、これこれ、この感覚、と興奮した。その勢いで「これ買っちまうか」と思ったけど、やはり高い。高いうえに、現金を持っていなかった。ちぇ。断念。

昔話に戻るけど、ラフ用の素材を見つけるときには、クライアント別の資料というのもあって、A社の担当はこの雰囲気を好むからA誌を中心に探す、といったような具合だった。それとは別にデザイナーごとの好みもあったので、Bさんから頼まれた素材探しはB誌からまず探す、というルールもあった。某流通の仕事を手掛けるようになったとき、クライアントの担当者がある日「『和楽』が好きなんだよね」と言ったので、大急ぎでバックナンバーまでそろえたのもいい思い出。

@metayuki
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