インソムニア・ノスタルジー

metayuki
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気になってはいたけれど、なかなか観るタイミングがなかったアニメ『君は放課後インソムニア』をようやく観た。よかった。

『君は放課後インソムニア』は、石川県七尾市を舞台とした作品で、不眠症に悩む高校生男女が天文部員となり、互いに惹かれ合いながら、それぞれの生きてきた時間の意味を新たにしていく、という筋書きで、ジャンルでいえば青春恋愛漫画といったところだろうか。校舎内に天文台があるというのは驚きなのだけれど、モデルとなった七尾高校にいは実際に屋上部分に天文台がある。すごいな。

さて。

アニメを視聴するまで知らなかったのだけど、オープニングはaikoが、エンディングはhomecomingsが歌を提供していて、おどろいた。どちらも好きなアーティストなのに、主題歌云々の情報はぜんぜん触れていなかった。

原作漫画はすでに完結しており、アニメはそのちょうど半分ほどのところまでを描いているらしい。ちなみに2023年には実写映画化もされている。そちらはまだ観ていなくて、機会があればぜひ、と考えている。

実在する土地や学校をモデルとしているので、聖地巡礼的な盛り上がりもあったのだけど、今年始めの地震被害によって、そちらもままならなくなっているようだ。復興の難しさについて話を進めると、とても書ききれないので、そのことはここまでとしておく。

この作品をまったく知らない、という方にとってはいささかネタバレになるかもしれないのだけれど、女性主人公の曲伊咲(まがり・いさき)は心臓に問題を抱えている。僕は原作を読んでいないので、物語の後半がどう展開していくかは知らないものの、前半でも病気に関する言及はあって、悲しい方角に進んでいくのではないだろうかという予感はある。

なにしろ高校生たちが主人公で恋愛の要素も含むし、主人公ふたりとも恋愛については奥手だったりなので、最初のうちはもどかしい気持ちで見守ることになる。それがほほえましくもあるのだけれど。

で、観ているあいだ僕はなんども、藤子・F・不二雄のSF短編「ノスタル爺」を思いだした。早く自分の気持ちを言葉にするんだ、と主人公たちに叫んで訴えたいくらいだった。「ノスタル爺」はそういう話で、誰もが一度は読んでおく価値のある作品だと思う。

そんなふうに考えると、ふたたび思考は地震のことに戻ってくる。

「ノスタル爺」は終戦を知らずに外国で永く過ごした人物(といえばモデルは明らか)が日本に戻ってきて、ダムのため水に沈んだ故郷を訪ね、そこで過去に戻り、失われた時間をじっと見守ることになる、という物語だ。失われようが、なにかを得ようが、過ぎた時間は過ぎたままでしかなく、叫んだところで届くはずもない。それでも叫ばずにいれない。それがノスタルジーと言われてしまえば、それまでなのだけど。

目下の僕の悩みは、『君は放課後インソムニア』の漫画に手を出すかどうか、というところである。お気楽な悩みで申し訳ないけど、土蔵に閉じ込められた爺さんの気持ちのまま、いつまでもいたくはないのだ。

@metayuki
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