レジを待つあいだに

metayuki
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このあいだ文具店に行ったら、新年度開幕直前とあってとても混雑していた。文具店としては書き入れ時だったわけで、なにもそんなタイミングで行かなくてもよかったのに、とレジ待ちで自分の読みの浅さを恨んだ。

昭和のころには、どの小学校にも文房具店が隣接していたんじゃないかと推測する。僕らの学校はそうだった。正門の真向かい、道を挟んだところに「松本文具店」があった。学校指定の品はそこで買う。ノートや鉛筆といった消耗品もだいたいそこで買う。

目がつり上がったおばあさんがいつも店番をしていた。小学2年生のときの担任だった田中先生に、そういえばちょっと顔立ちが似ていた。

小学校の運動場側の道の真向かいには駄菓子屋さんがあった。「中野商店」という名前だったように記憶している。斜面の上に建った古い家屋の一階部分に駄菓子を並べていた。

松本文具店の裏側には細い道があり、そこをたどった先に竹藪があって、幅広で長い階段がその藪の斜面に沿って設けられていた。階段をのぼった先には納骨堂があって、その階段は昼間でも薄暗く、不気味だった。ときどきエロ本が捨てられていることから、男子はちょくちょく冒険気分でその階段を通った。

小学校のプールの裏側にもよくわからない森のようなところがあったりして、その奥には沼地があるという噂だった。死体が浮いていたという話も聞いたことがあるけれど、真偽の程は知らない。

松本文具店のおばちゃんが亡くなったと聞いたのがいつのことか、思い出せない。中野商店のおばあさんについては訃報を聞いたおぼえがないけれど、生きていれば日本最高齢の記録をぶっちぎりで更新しているはずなので、まあ、もうあそこにはいないだろう。

レジ待ちのあいだにそんなことを思い出して、つい、店員さんの顔をじっくりと観察してしまった。やさしそうな顔立ちで、丁寧に応対してくれて、新年度を迎える子供たちに笑顔を向けていた。

@metayuki
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