年末のパーティに備えてアイスクリームショップにアイスケーキの予約をしようと電話をかけた。「ケーキの予約を」というと、電話対応していた女性が「それでしたら」と話を切り出した。
「今年のクリスマスの特別ケーキがありますが、そちら、いかがですか?」
その日は12月26日で、きっと売れ残りをおすすめするよう店から命じられているのだろう。女性はアルバイトかもしれない。しかしこちらではすでに注文するケーキを決めて連絡していたし、せっかくのパーティでクリスマス仕様のものを出すのは、費用をケチったと誤解されかねない。え、なんでサンタ? とか。
「いえ、あの、もう決めてるんで」
「そうですか、それは失礼しました」
心苦しそうに言われて、こちらもちょっと申し訳ない気分になった。だからといって、じゃあクリスマスケーキもひとつ、とは言えない。予算の問題もあるし、アイスケーキじゃおすそわけだって難しそうだ。
注文を済ませると、相手は「ご注文、菅井が承りました」と言った。
店のスマホを定位置に戻すと、バイト仲間の川越が「やっぱダメだった?」と菅井に聞いてきた。
「ダメに決まってるじゃん。割引するならまだしも、定価だよ」
「じゃあ、うちらで買おうか」
菅井と川越はクリスマス仕様のアイスケーキをふたつずつ買って帰った。ふたりともひとつは友人に半値で買ってもらい、ひとつは自分で数日にわけて食べた。それでもクリスマス仕様のケーキは余った。余った七つは店長が自腹で購入した。
七つを買った店長は友人たちとの忘年会にアイスケーキを持ち込み、拍手喝采で迎えられた。
「これでボーナスの半分が飛んだ」と訴えても友人たちは拍手で称えるばかりで、まあいいか、と店長は苦く笑った。友人の紹介で知り合った人物が店長の不遇を慰めたことをきっかけにふたりの交際が始まり、やがてふたりはともに暮らして、幸せな日々を送ったのです。
はい、ここまで妄想。
といったような展開になればいいな、と思って書きました。クリスマスケーキを勧められたことは事実です。電話対応していた女性も申し訳無さそうに切り出してきたのが印象的で、こんな文章をしたためた次第。
僕が社会人になったころは、取引先からクリスマスケーキを買うというノルマがあった。いまもあるところにはあるのかもしれない。あるだろうな。ノルマといわれると抵抗を感じるけれど、そういう機会でもなければ食べることのない味もあるので、きらいではないです。