一昨日から右目がものもらいに襲われていて、なにをやるにもつらい。涙が止まらなくて、眠っているあいだにも耳に向かって垂れてくるから、長く眠れないでいる。いまこそ涙目のルカのものまねをするべきではないかと思ったものの、我が家にはおおきなスコップがなかった。残念。
涙目のルカは『ジョジョ』第5部に登場するキャラで、「友情関係には3つのU(ユー)が必要だ」と主張する。3つのU。さあ、みんなで考えよう。いや、そんな話じゃない。
子供のころ、眼帯にあこがれた時期がある。なんでだったか、とうとう眼帯をつけるに至ったことがあり、快哉を叫んだものだ。当時は中2病なんて言葉も概念もなかった。怪我に対するあこがれが強くあった。『グイン・サーガ』ではヴァレリウスが好きだった。そういう時期だ。
小学5年生のころ、学校で階段をかけあがって勢いよく左に曲がったら、廊下をこちらへ走ってきていた男子と衝突した。ごめんごめんと言って教室へ戻ったら、まわりの子たちが僕を見て奇妙な声をあげた。くちびるから血がぼたぼたとしたたっていることに、そこで気づいた。すぐに水道で洗ったけれど血は止まらず、授業のためやってきた担任も驚いて、保健室へ連れていかれた。保健室でも処置が追いつかず、学校に近い外科まで車に乗せられていった。
病院で診察してもらったところ、上唇にぽっかりと穴があいていると判明した。男子と正面衝突したとき、彼の額に僕の口がぶつかり、その衝撃で前歯が唇を貫いたのだろうという見立てだった。麻酔を打たれ、傷口を縫う、というあたりで母親が病院にやってきた。仕事をきりあげてやってきてくれたのだ。医者だけが呑気なもので、麻酔が効いているからだろう、銀の棒を唇にあいた穴にさして「ほら、おかあさん、穴があいてるんですよ」と説明した。
もしもあのときスマホがあったら、ぜひともその場面を動画で撮りたかった。俺の体が傷ついているのに、俺がその穴を見れないなんて、どういうことだ。
その後、数日は、僕は「ひどい怪我をした人物」として周囲にめずらしがられた。唇が糸で縫われているのも効果抜群だった(なんの効果だ)。気持ち悪がられていたのかもしれない、馬鹿と思われていたのかもしれないけれど、こちらとしては得意げだった。ああ、中2病だった。
ちなみに僕とぶつかった男子は額にちいさな傷ができただけで、こちらは石頭ぶりを評価されていた。
穴があいたあたりには、いまもかすかに固くて、しこりのようになっている。
ここにかつて穴があった。
そんな書き出しで始まる物語を当時の僕が妄想したことは、いうまでもあるまい。