観劇に行ったおり、長い舞台だったので途中20分の休憩が挟まれた。すると休憩時間に入るなり、僕の後方に座っていた女性が電話でおしゃべりを始めた。おしとやかな声なので、うるさいとかいった印象はまるで受けなかったのだけれど、「いまね、ちょうど休憩に入ったところ」と報告でもするみたいに話すものだから、そのまま劇評的な言葉が続くのかと期待して耳をそばだててしまった。しかし話題は「ご飯食べた?」といった方向に舵を切られ、とたんに興味を失った。さておき、休憩時間の使い方も人それぞれだなと思った。
その昔、長時間の映画でもあいだに休憩を挟んでいたそうだ。そんな経験はない、と書こうとしたところで思い出した。ラース・フォン・トリアーの『ニンフォマニアック』を観に行ったときは途中休憩があった。いや、あれは違うか。VOL1と2の連続上映だったから、あいだに小休止が挟まっただけで、2本立てと同じ意味合いの休憩だ。それなら僕も何度でも経験がある。2本立てがあたりまえの時代に生きたから。
高校時代、ディズニーアニメの『アラジン』が劇場公開され、大ヒットした。そのときも2本立てで、同時上映がたしか邦画の実写作品で、子猫だか子犬だかが主人公の物語だったと思う。題名もなにも思い出せない。
『アラジン』は、そりゃもうデートで行くならこれでしょ、という盛り上がりで、かくいう僕も女の子とふたりで観に行った。で、偶然、劇場で友人とばったりあった。彼のほうもデートで来ていて、軽く挨拶して、離れた席に座った(指定席制度じゃなかった)。友人はどちらかといえばヤンキー寄りの人物で、とはいえ僕と友達になってくれるくらいなのでバリバリの硬派というのではなかった。友達の彼女もちょっとヤンキー寄りな雰囲気で、ほとんどしゃべったこともなかった。
僕らは同時上映の作品にはまるで興味が持てず、無理に観る必要もないだろうということで、『アラジン』だけで劇場を去った。翌日、学校で件の友人と会ったときに、当然『アラジン』の話題になり、そこでこう言われた。「同時上映のも面白かったよな」と。
「え、観たの?」
「観たよ。中山君、観なかったの? もったいない」
あー、これはあれか、ヤンキー、動物に優しい説。と、当時そんなふうに思ったかどうか忘れてしまったけれど、まあ、意外だった。
よくよく考えてみれば、デートで2本立てをちゃんと観た経験は、ない。映画は2本立てが基本で、単品での上映なんて珍しかったから、中学生のころは単品上映だと損した気分になったものだ。『バック・トゥ・ザ・フューチャー』とか『プロジェクトA』とかの大作系だって2本立てだった。2本立てで出会わなければ知らないままだった作品も多い。
だけど、デートで2本はきつい。どっちもつまらなかったらどうする? 地獄。1本だって相手の好みにあうかどうか心配になるというのに、2本続けてその試練を味わうのは勘弁してほしい。
相手も映画好きならいいじゃん、と思うけど、でも、映画好きって人とつきあったことがないので、そのあたりの感覚がわからない。めちゃくちゃ映画好き同士とかなら、2本立てとか、オールナイトとかも楽しいんだろうか。相手の好みとか気遣ったりせずにいけるんだろうか。それとも、互いにめちゃ映画好きなら、わざわざいっしょに行ったりせず、互いに単独行で、好みが重なる作品だけいっしょに足を運んだりするのだろうか。それってデートなんだろうか。いや違うな。いや、どうなんだろう。
話題になってるアニメ映画を観に行って、同時上映の作品もいっしょに楽しく鑑賞したというのなら、高校時代の友人たちのその時間こそまさしくデートなのかもしれない。元気かな、あのふたり。