阪神大震災について、毎年思い出すことがふたつある。
ひとつは、大学の試験期間中だったこと。朝からニュースで地震の情報がくりかえし伝えられるなか、僕は大学へ向かい、試験の空き時間に友人たちと冷たい廊下で地震について話した。
もうひとつは、数年後のこと。知人が関西の出身で、友人を地震でなくしたこと、自宅もひどい状況になったことを、一度だけ話してくれたことがあった。普段はクールな態度の人物だったけれど、地震について語るときには、まるで別の人みたいだった。いつもの彼が、どこかにすっと消えて、地震を経験した当時の彼がそこに舞い戻ってきたとでもいうふうな、あれは、ふしぎな感覚だった。
経験としては、どちらもたいしたことではない。だけど、災害について考える時、僕の中でこのふたつは、わりと重要な位置にあって、この先も毎年思い出すはずだ。