休んで勉強したい人

metayuki
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体調不良のため、近所の病院へ。初めて訪れるので、やや緊張もしたけれど、あまり待つこともなくスムーズに診察も終わり、薬も院内処方だったのでとてもラクだった。

幼いころからアトピー性皮膚炎を患っており、定期的に通院してきた。僕が小学生のころにはアトピーがめずらしいもので、近所の皮膚科では診てもらえなかったのかどうなのか、ともかく、自宅から離れた大きめの病院に通っていた。三階建てか四階建てだったか、入ってすぐのスペースが吹き抜けになっていて、壁に沿って螺旋状のスロープが上までぐるぐるつながっていた。古いSF映画の舞台になりそうな造りが大好きだった。吹き抜けの一階が院内処方の薬局になっており、待ち時間に用もないのにスロープをのぼったりおりたりするのが楽しかった。

中学生になると自転車通学だったこともあり、ひとりで通院するようになった。月に一、ニ度、午前中の授業を休んで病院へ行き、そのあとで登校する。正当な理由があるのでサボっていたのではないけれど、この通院の習慣で、学校をサボることへの心的ハードルがさがったのは、また別の話だ(けっこうサボった)。

小学校からいっしょだったY君は、おさないころから秀才の呼び名が高く、中学にあがると頭の良さが「テストの順位」として可視化された。僕はたいして勉強ができるわけでもなく、Y君と成績で肩を並べたこともないのだけれど、あるとき「なんでちょくちょく授業を休むのか」と聞かれたので「通院している」と素直にこたえると「なんだ、休んで勉強してるのかと思った」と言われた。

「休んで勉強してる」とは、なにごとか。座ったまま立つことができないように、休みながら勉強するなんて、きみ、そんなの不可能だよ、ははは。

これはつまり、「学校を休んででも勉強したい」とか、「学校の授業なんかより自分で学習したい」といった、Y君の願望のあらわれなんじゃないかと思うようになったのは、ずっとあとのことだ。当時はとにかく彼の発言が疑問でしかなかった。

ちなみにY君からは小学生のころにも印象深い一言を投げられたことがある。

「中山君って頭悪いけど、頭悪くないんだ」

なにをもってそう感じたのか、わからない。校庭で遊んでいるときに言われた。アスレチック施設の前で、なにかの順番待ちをしているときだった。どんな文脈で出てきた言葉なのかおぼえていない。会話の流れがあったのかもしれないけれど、なかったような気もする。僕が何とこたえたか? おぼえていない。「あ、ありがとう」くらいのことは言ったかもしれない。

Y君と仲良しというわけではなかったので、彼のその後についてはまるで知らない。僕がここに書いた発言も、彼はぜんぜんおぼえていないだろう。逆に、僕が忘れてしまった言動を、彼の方でおぼえているかもしれない。「頭悪いけど、頭悪くないんだ」と認識を改めてもらえるような発言とか。

どんなんだ、それ。

@metayuki
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