引っ越してもう少しで一カ月が経つ。(前の家に比べれば)広いキッチンを手に入れたので、毎日料理をするのが楽しい。狭いキッチンだとボウルを出すのが嫌で、ずっとホットケーキなんて作っていなかった。休日、アラームが鳴るより少し前に目が覚めて考える。ホットケーキ、焼こう。
子どもの頃、『しろくまちゃんのほっとけーき』という絵本が好きだった。ホットケーキを知ったのは、絵本のおかげだ。『ぐりとぐら』はカステラだったかしら。ともかく、まるくてふわふわのあまい食べ物を知ったのは、『しろくまちゃんのほっとけーき』のおかげだ。ホットケーキが、家のフライパンで焼けるものだということも。
ホットケーキは何枚でも食べていい。初めて食べた時からそう思う。実際にお腹に入るのは頑張っても二枚で(もしかしたら、小さい時は小さく焼いてくれていたのかもしれない、母が)いつも悔しい思いをしていた。小食のわりに食い意地が張っている子どもだった私は、次の日までとっといて、とよく母の足にまとわりついてお願いしていた。
大人になってホットケーキを焼くと、なんだか小さく見える。自分の顔ぐらいあるんじゃないかしら、と思っていたホットケーキも、なんのことはない、両掌に収まるくらいだ。損をした気分で悲しいけれど、きっと胃袋も大きくなっているはずだから、そう思ってお皿に何枚も焼き上げたホットケーキを積みあげる。
ところがどっこい、ヨーグルトとジャムをかけて食べ進めていて気が付く。二枚目で、お腹がいっぱい。どうした、胃袋よ。少しは成長しているんじゃないの。ひいひい言いながらやっとの思いで四枚のホットケーキを食べきるころにはお腹がパンパンになっていた。
子どもの頃は母に二枚までね、と言われて悲しい思いをしていたホットケーキ。大人になったらいっぱい食べられるようになると思っていたのに。いつになったら好きなだけ食べられるようになるのかしら。