「形態は機能に従う」という言葉がある。建築家のルイス・サリヴァンという人が言った言葉で“Form follows function.”が原語だ。概念的かつ哲学的すぎてなにを言っているのかよくわからないと思うのでこれと同じような思想を語った、こちらも同じく建築家の丹下健三の言葉の方がわかりやすいので一緒に紹介しておきたい。いわく「美しいもののみ機能的である」。
これは彼らの建築やプロダクトの美=意匠≒デザインについての思想を端的に言い表している言葉だ。"美しいとはなにか"という人間が有史以来、いやもっともっと前から考え続けてその答えを求め続けている問いに対して立脚する思想の立場を表明している。機能とは「効用」「功利」と言い換えてもいいかもしれない。どのくらい実用的なのか、どのくらい役に立つのか、で美しさの基準は測れるというわけだ。
そんな地に足のついた思想とは正反対にあるのは形而上学的で超越論的、抽象的かつイデア的で、他に(たとえば機能に)頼ることなくその内側に意味を内包している自律的な美の概念を理想に掲げる立場。これらの立場の違いはアリストテレスとプラトンの哲学の違い、そして西洋哲学が行ったり来たりしながらお互いを否定し合ってきた2つの極にある思想の違いでもある。
ぼく自身はプラトンが好きだし彼が語るロマンチックで理想論的な哲学の方が肌に馴染みやすいのだけれど、最近はやっぱりそれだけではないのかな、とも思えてきている。アリストテレスが言っていたように現実の"行為"の主体性がぼくたちの環世界を形作っているのだと思うし、ベンサム(とミル)が言っていたように最大多数の最大幸福という静謐な客観が僕たちの愚鈍な習性を正して共同体を円環させるのに役に立つことがあるとも正直思う(すこし危険な思想だけど)。現実問題は理想論だけではとてもとても解決しきれない。ぼく自身もそういう風にプラトンとアリストテレスを行ったり来たりしてきたし、これからもしていくのだろう。どちらかに決める必要もない。デュアルスタンダード(ダブルスタンダード)という境界のない曖昧なエクリチュール性がぼくたちと世界のリアルな姿なのかもしれない。
だけど、内面の人格的な部分での哲学はプラトン的な理想論に傾倒してはいるものの、美容師の仕事自体はリアルな現実のデザインによる問題解決だと思っているので、それはアリストテレス的な"行為"であり"目的"であり、そして"機能"に立脚した美の立場であるとも言える。ヘアスタイルはまさに「形態は機能に従う」だと思う。美しいもののみ機能的であり、機能的なもののみ美しい。美しいヘアスタイル、美しいヘアデザインとは、どれだけお客様が笑顔になれるか、喜んでもらえるか、抱えた悩みを解決できているか、過ごしやすいか、心地いいか、スタイリングが楽かetc.そんな"機能"の問題。それをデザインするのが美容師の仕事だと思っている。
だからこそサリヴァンや丹下健三が言った言葉たちがぼくは好きだ。これはどっちが正しいとか優れているとか、そういう話でもないと思う。好みの問題でもあるし、ケースバイケースでもあるし、曖昧でマーブルで明確な答えがない即興的な問いなのだろう。そしてプロダクトデザインにおいては機能的であることとデザイン的であることの比率のバランス感でブランドやデザイナーの特色や思想が読み取れる。
そんなこんなで最近、デンマークのインテリアブランドHAYで新しい照明「NEON TUBE LED SLIM」を購入した。デザインを一切廃した無機的で無駄のないフォルム、それはまさに「形態は機能に従う」を体現していると言っても過言ではないだろう。なんとまあ、美しいんだ、、、。この照明を見るたびにぼくはサリヴァンと丹下健三の言葉たちを想起することになるのだろう。
ふふふ。
こんなに時間をかけて、寄り道をしながら文字数を重ねて一体なんの話かと思えば、浮かれた気分で購入品を紹介したいだけの日記。今日はそんな気分だった。
ご清聴(ご清読)ありがとうございました。おやすみなさい。良い夜を。