と、害獣被害の話題が出るたびに、そんなに困っているなら完全根絶はさせられるじゃん、実際にしないのは意図があるからでしょ、と思う。
結論から言ってしまえば、戦争になった際に毛皮を取ろうと考えているからでしょう。
わたしがこう考える説明をするために、まずは羊毛の日本史を聞いてほしい。
羊毛の日本史はことのほかおもしろい。
まず、文明開花以前に日本人は羊を見たことがなかったらしい。中国から輸入した概念である干支に含まれている故に大陸にはそういった生物がいると知識はあるものの、日本にいない動物の羊は、山羊に似ているらしいとされてヤギの絵姿で描かれていた。
明治になってから日本政府は羊をアメリカから大量輸入し、最初は千葉県に大規模農場を作るも失敗。そりゃそうだ。羊は比較的寒い地域の生き物。日本のカリフォルニア、暖かい千葉で育てようだなんて。せめて軽井沢、長野にしていればうまくいったかもね。それほど未知の生物で誰も飼育知識がなかったのです。
日清戦争、日露戦争を経て、寒冷地に耐える温暖な軍服を作る必要性をひしと感じた日本政府は、再び羊を輸入して民間での飼育を奨励する。そして第二次大戦後国内で飼育されている羊は100万頭まで増えた。しかし高度経済成長し輸入のほうが圧倒的に安くなると国内の羊毛需要は瀕死に。そう、元々羊を飼育する気候でもないしスキルもない。長年羊と暮らしてきた国の羊毛のほうが品質が良く価格も安いとなれば勝てない。
負債になった羊たちはどうなったか。なんと、ジンギスカンという料理をあたかも海外で昔から食べられていたかのように創作し、流行らせた。そうだったのか!と思って見ると、ジンギスカンという料理名、めちゃくちゃひどい。料理名に織田信長とつけるようなものなのだから。
とはいえ人間はミーハーなものである。羊肉を食べる習慣のなかった日本人は物珍しさもあいまって、100万頭いた羊が、10年間で1万頭にまで減少した。おそるべきは食欲。ああダンジョン飯。
なのでいま日本に残っている羊は、主にはその時に根付いたラム肉料理のために飼っているか、動物園が飼っているかなのですね。ついでに羊毛を手紡ぎ愛好家に売っている。食肉用メインなので肉のまずいめん羊のメリノなどは飼っていない。
戦争になったらまた羊を増やすかというと、容易にそれはできない法律がある。現代史で習った四日市ぜんそく。あれの汚水の原因のひとつが、羊毛を洗った水だったようです。これを知ると、愛知がウールの地尾州と名乗る歴史と繋がる。なるほど。ちょい横道にそれた。そう、すでに規制されているので、もう大規模洗浄工場は国内に作れないのです。国産ウールなどは、ウールを海外から仕入れて加工しているものをそう呼んでいるか、国内の羊毛を環境汚染がないかわりに洗浄力も弱い洗剤で手洗いに近い小さい機械で洗浄している。
そんなの費用がかかりすぎる。古代より羊と暮らす国からの輸入羊毛と比べてしまえば、永遠に品質も価格もかなわない。国産羊毛は愛好家の趣味だ。とはいえ有事になればどんな法律も覆す。しかしもう政府も趣味のままにさせておいていいのだ。なぜなら、代替生物が今はいるから。
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デパートで市販のニットの表示を見ると「毛100%(チャイニーズラクーン)」という表示のものがまあまああるのに気がつく。
チャイニーズラクーンとはアライグマ。そう、アライグマは、毛皮として優秀なのだ。
注)チャイニーズラクーンのニットは、羊毛と違って刈るのではなく、毛皮にした残りを有効利用したものらしいとのことで、ブルーフォックスの毛皮・毛糸と同様、動物愛好家から反対運動が起きています。エシカルを目指すファッションブランドは順次取り扱いを中止しているようです。
だからアライグマを害獣指定してなかば放置しているんでしょ、政府さんは、と、わたくしはいつも思いながらチャイニーズラクーンの表示を見ておりますことよ。
要は寒冷地での防寒具になれば何の毛でもいいわけですからね。戦時中は羊毛だけではなくたぬきや野うさぎやムササビなども毛皮にしていたそうです。猟友会の資金源だったとか。それでも足りなくなると、犬猫の毛皮もね、使っていたから、第二次世界大戦中にはペットの供出というものがあったようで・・・うっ。心が軋んできたのでこの話題はここで終わりましょう。