「プロジェクト・ヘイル・メアリー」をAudibleで

miminari
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公開:2026/2/19
AudibleのUI画面。「プロジェクト・ヘイル・メアリー」第一章が表示されている。

Audibleで聴いた作品の評を「書評」と称して良いのか若干むずむずしつつ。これはあくまで「Audibleで聴いた『プロジェクト・ヘイル・メアリー』の感想」です。

Audibleについては https://sizu.me/miminari/posts/wv3khv92224m に書いた通りであまりその評価が変わっていない。解約しようと相談したら夫の人は使っていると言われ諦め、月額を考えると私も1冊ぐらい読まないと勿体ない気持ちにもなり、慣れる努力をもう少ししてみようと思って家事の合間とか、体調がしんどいのに眠れない時とかに、まだ買ってはいないけれど読んでみたいなとちょっと思っていた作品を試してみるのには良いかもとは思い始めている。

そんな私が、初めて最初から最後までAudibleで聴ききった作品が「プロジェクト・ヘイル・メアリー」。Hail Maryという言葉、初めて知った。

つまり日本語で言ったら、「神様の言う通り」作戦?「神頼み」作戦?「蜘蛛の糸」作戦?とかかな?Claudeに相談したら「乾坤一擲作戦」はどうですか、ですって。けんこんいってき、って何の話だったっけ?と思って調べ始め、韓愈の過鴻溝「龍疲虎困割川原億万蒼生性命存誰勧君王回馬首真成一擲賭乾坤」の中国語での読み上げ聴きたいと探してみるもののマイナーだから無いねと言われて、諦める。中国文化に負んぶに抱っこだが、元の言葉の格好良さとか、一世一代の大勝負感は一番あるのかも。英語圏でこのタイトルの意味から興味を惹かれた人はどのぐらい居るんだろうな。アメフトの文脈からアメリカでは結構一般的なワードではあるんだろうけれど。

ここからはネタバレあります、あしからず。

映画化されるとは耳にしていて、公開される前に出来たら読んでおきたいなあぐらいには思っていた作品だったので、Audibleのトップ画面で見かけて聴き始めた。宇宙の話っぽいというのとライアン・ゴズリングが主演するらしい、ぐらいは知っていたけれど、それ以外の前提知識がないまま聴き始めたのが良かった。Audible直だと、書籍に付いてる帯や裏表紙のあらすじなんかも無いので、ゼロ知識で作品に触れたいという欲は結構満たしてくれると思う。

あともう一つAudibleで良かった点は、可愛い、筈はないのだが可愛いとしか思えない「バディ」の声をそれっぽい効果音で表現してくれてたところ。逆に悪かった点もそこなのだが、一体この音はテキストとしてはどう書かれているのか、などと過ってしまうところ。そして、バディの声がやたら可愛い過ぎではなかろうか、と思ってしまったところ。

物語でも、やはりどうしても作品に没頭しずらい。やっぱり元々がテキストなので、どんなにプロの上手い読み上げでも、口語となると違和感のある表現が頻出してしまう。プロジェクト・ヘイル・メアリーは独白調で会話も多いし、基本カタカナが多いからまだその感じが弱めではあったものの、やっぱり漢字の言葉は目で見ないで音だけだとパッと意味が分かり辛いんだよな。言葉にもよるけれど。どこまでも象形文字。見て理解させる力の強さの裏返し。

そんなわけで前半は、もどかしいような、辿々しい気持ちで聴いてはいたが、作品の物語りがエグうまくて、SF小説だと中々避けづらい状況説明文みたいなものがほぼ無く、そもそも状況を説明することが本筋になっているのには舌を巻いた。どうやって思いついたのだろう。構成が上手いというべきか。伏線回収の配置と、ドンデン返しの配置の妙に後半はすっかりハマっていて一気に夜更かしして聴いてしまった。

読書との一番の違いはその「ハマった」感だろうか。物語に没入する時、読書だと私の場合、読むスピードがグンと上がって集中し、するするとテキストをテキストだと意識する間もなく脳に入ってくる快感が好きなのだが、音声だと没入したとしても音は勝手には早くなってはくれないし、早く先を知りたくても音を待たなくてはならない。1.5倍でも全然遅い。でも2倍だと聞き取りづらい。つまりは自分でコントロールできないのが不快なんだろうな。没入体験に辛さが交じってしまう感じが、私にはある。

主題は、王道というか、少年漫画っぽさ、マスキュリンな冒険譚、自己犠牲と友情、みたいな分かりやすい処に、宇宙生物学から宇宙物理、量子力学、宇宙工学、地球生態生理、地球惑星環境などなど、ありとあらゆる分野の科学の面白さを詰め込んだエンターテイメントになっていて、なるほど万人受けするようにしっかり描かれてる感じ。著者のアンディ・ウィアーさんを初めて認識したのだがなるほど「火星の人」の著者だったのか、と読後に知る。「火星の人」がウェブ連載だったというのも初めて知って驚く。素晴らしいな。

最初は持ち上げつつもバディへの視点がどうにも若干上からで、地球の科学の方が結局は進んでおり、バディの国に「知恵を授け」且つ、最後に自身の自己実現までもちょっと果たせてしまっている辺りが、うん、あれだけしんどい思いしたならそのぐらいの救済はあって然るべきかもとは思いつつ、なんだろう、ちょっと痛いぐらいにアングロ・サクソンなお花畑的展開では?とはうっすら過ってはいた。がなるほど、と思う。ええ、私の中にアングロ・サクソン諸国に対するどうやっても拭いきれない偏見があるのは認めます。悪い。悪い。あ、いや、これについては良い悪いとかいう意味じゃなくて、著者の文化的背景はやはり作品に色濃く反映されるものだよなという納得。ちなみに「火星の人」は読んでないし映画を観てすらない。けれど、もうショート動画などで粗筋を知ってしまっている。機を逃したなと思いつつも、Netflixとかで観れたらいつかそっと観ておきたいなと思っていた作品。

同様に「旬のある作品」だなとは思う。いつでも読める、むしろ成長や人生のステージごとに楽しむべき作品、というよりは、物語の構造自体がびっくり箱で面白いという話なので一回読んだり、筋を知ったらばもう良いかな、となるものかも。リアルタイムで触れてこそ、という感じはある。

そろそろ、そんなのつまり、面白かった、だけで良いじゃないか捻くれ者、という石が飛んできそうではあるが、その通り。 苦手なオーディオブックというメデイアで触れたというのに、結局2000字超えの駄文をだらだら連ねてしまうぐらい面白かった、ということです。Audibleに途中でテキストに移行できるモードがあればいいのになあ。