私が一番はじめに知った世界のひみつは、サンタさんの正体だった。
まだ幼稚園に通っていたころ、4歳かそこらだったと思う。仲の良かった友達に、「サンタさんってお父さんとお母さんなんだよ」と言われたのだ。その友達はクリスマスの夜こっそり起きていて、枕元に両親がプレゼントを置きにきたのを見たらしい。
私はとてもショックだったけれど、その友達がうそを言っているようには見えなかったので、その話を信じた。今思えば、もうすこしサンタさんの存在を信じていたかったなあと思う。
子供にプレゼントを配るサンタさんは、(私の知る限りでは)架空の人物だ。それはつまり、うそということになるけれど、私はどうしてかこのうそを嫌いになることができない。
子供には、子供らしく夢を見れるときにたくさん夢を見ておくべきで、そうすることで、大人になって夢ではなく現実を見なくてはいけなくなったとき、かつて見ていた夢のなごりが自分を助けてくれるようになるのだと思う。
「サンタさん」のうそは、私にたくさんの夢を見せてくれた。いつか真実を知る日が来たとしても、今だけは夢を見ていいんだよと、小さなうそを守ってくれていた大人たちに囲まれていたことを知れた。それは、たとえるなら、気づかないうちにすてきなプレゼントをもらっていたことに気づいたような気持ちだった。
今、私はクリスマスに家族へ贈る物語を書いていて、その物語の世界ではサンタさんが実際に存在する。うそを守る側に、夢を見せる側の大人になった私は、この物語を、あのころの幼い私と一緒に紡ぐつもりで作っている。
自分のことは、自分自身なのによくわからないことが多くて、私は私を乗りこなすのに苦労する日々だけど、幼い私のことはなぜかよく分かるからふしぎで、逆に幼い私が今の私をはげますこともあるから、さらにふしぎに思うと同時に、人生ってけっこう面白いかもしれないなあと、とてもこざっぱりした、泣きたいような気持ちになる。
BGM:乖離するゲンザイ/阿修