am3:40

minori_nora
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平日ど真ん中の木曜日、深夜3時半に目覚ましをかけた。

恋人がオードリーのオールナイトニッポンのファンで、東京ドームで行われる一世一代のイベントのチケットを2枚持っているのでよかったら一緒に行かないかと誘ってくれたのだ。ただしそのためには越えなければならない難関があって、そのチケットはもう1年近くも前(私と出会うよりずっと前だ)にとりあえず取ったもので、そのままではその時登録した人間しか使うことができない。イベントに入場する権利を私に移すためには、チケットサイトを通じてリセールしなければならないという。しかしこのイベントはたいそうな人気であり、チケットがリセールに出るやいなや飛ぶように売れていってしまう。つまり私が彼と一緒にイベントを観るためには、そういった血眼のファンの皆さんの数多の腕をくぐり抜け、彼が売ったチケットを私が確保しなければならない。

というわけで、一番ひとけのなさそうな平日の早朝(というか夜)にチャレンジすることにしたのだった。

前日の夜にもろもろ打ち合わせをし、では…と神妙に電話を切って眠って、数時間後の3時半。どうにか目を開けてチケットサイトにアクセスしているところに電話が鳴り、寝起きのぐにゃぐにゃの声で恋人がおはようと言う。サイトでの売買もさすがに静かだ、狙い通りたぶん今がチャンス。では、やりますよ…と恋人が電話の向こうでチケットのリセール手続きに入る。強い眠気をも押しやる緊張した空気。5秒後売るからね、4、3、2、…売ったよ!

了解、待ってね…あっ出ました!買うね!おっけーこれで間違いないね、クレジットカードも登録してたし…よし、よし、と、かなりテンポ良く最後の決済画面に進んだところで突然、「このチケットはすでに購入されました」のメッセージが表示され、うああ〜〜〜と思わず声が出た。うわ、ごめん、だめだあ、誰かが…。まじか〜〜。仕方ないね。うう、ええ〜、悔しい、急いだつもりだったけどもっと急げばよかった、ほんとタッチの差だったはずだよ…うわあ、これはちょっと本当に悔しいのですが…!

うーうー唸る私に、恋人はそうだね、そうだね、でもやれることはやったよ、これはもう仕方がないよ、と淡々と、に近い声でなだめてくれる。でもなあ、あ〜、みのりさんと、1年前に出会ってたかったなあ。

チョロい私はそれでうっかり気をよくしてしまう。チケット取れなかったけど、まあ別にこれでも3時半に起きた甲斐はあったかも、と心がにこにこしだす。1年前に出会ってたかったなあ。そしたらもっといろんなこと一緒にできたよね。でも、これからがあるもんね。まだきっと。いろんなことしたいね。

この間映画を観てから、生活を手段でなく目的にすることについて、よく考えている。当然、生きていればやってらんねー朝やしょうもなくてへたり込んじゃう夜は何度だって繰り返しやってくるだろうけれど、それでも、できるだけ、生きる日々自体が喜びである生活をするには、どうすればいいだろう。

特に近ごろは恋人と過ごす時間がかなり好きで、それによって自分がいかに今の仕事を好きでないかがこれまで以上に浮き彫りになってきている感がある。いずれにせよ次の夏で部署を変わるのでそれからどうするかだけど、それまでだって、考えることはたくさんあるなあ。

なおその夜比較的落ち着いた態度を取っていた恋人は、翌日電話すると「当日俺の隣の席に座った人間に対して平静でいられる自信がないよね、さすがに手は出ないと思うけど…」などとブツブツ言っておりだいぶダメそうだった。

木曜日午前3時40分に私たちからチケットをかっさらっていった君、どんな人がその日、私の恋人の隣にやってくるんだろうね。

@minori_nora
日々のことをのびのびと