レンタルの可能性──SHIBUYA TSUTAYAについて

mirai
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2024年4月末、スクランブル交差点に面するSHIBUYA TSUTAYAがリニューアルオープンした。かつてDVDやビデオのレンタルが中心であったその場所はコワーキングスペースを中心に残りはイベントスペースやPOPUP SHOPというかなり割り切ったリニューアルを実施している。

実際に開業から3日ほど経ったタイミングで見に行ったのだが、どんな雰囲気に変わったのか、その様子を一目見ようと多くの人で賑わっていた。それに加えて、実際にコワーキングスペース(SHARE LOUNGE)を利用する人や、イベントスペースで開催されるPOPUP SHOPを目当てとする人も多く見られた。

このリニューアル自体が成功だったかどうだったかはこれからだろうし、一部フロアは今後の改修を前提としているような面持ちのエリアもあり、結論づけるのは時期尚早だろう。ただ渋谷という場所性を考えるのであれば、致命的な問題がある。

イベントスペースやコワーキングスペースを中心とした構成は国内向けの集客はトレンドに乗ることができれば一定の収益を期待することができるが、対外的には毎回やっているものが変わる場所というのは行くことがリスクにしかならず、わざわざ旅行の少ない時間を割いていくような場所にはなり得ない。簡単な例えで言えば東京ビックサイトや幕張メッセが旅行ガイドに載りにくいことと同じである。つまり、今のイベントを中心とした改修後のTSUTAYAはスクランブル交差点を上から眺められる展望台以上の価値を持ち得ない可能性があるのだ。

では、それを解消するにはどうすれば良かったのか。その鍵は「レンタル」にあると思う。

レンタル事業自体サブスクの対等により明らかに斜陽産業に成っていることはTSUTAYAやGEOをはじめとする実店舗の撤退戦略を見れば間違いないだろう。そして、おそらく今回のリニューアルも渋谷の一等地とも言えるこの場所でレンタル事業を中心とした展開がうまくいかなかったからの結果だと推察される。そして、そもそも出版業界やDVD販促という視点にたてば、レンタル事業はコンテンツ購入と競合するため、あまりポジティブなイメージは抱かれていないだろう。

ただ、それでもなお「レンタル」という文化はなくすべきではないと思う。そしてだからこそ、この渋谷のTSUTAYAこそレンタルはなくすべきではなかったと思う。

それはサブスク上ないレンタルでしか見れない作品があるというような著作権的な問題ももちろんだが、それ以上に①「レンタル」という気軽さが失われること、②レンタル棚をめぐりコンテンツを物理的に選ぶという回遊性が都市から失われてしまうことの2つが大きな問題と考えている。

前者で言えばTSUTAYAのレンタルは旧作でいえば90円、新作でも220円ほど(店舗により若干異なる)であり、一般的なサブスク価格1000円前後よりも非常に格安で提供されている。これがコンテンツに対するハードルの低さを生み出している。買うほどではないがレンタルなら良いかという気持ちの受け皿になっているのだ。(この辺りは文末に貼り付けてあるPodcastでも詳細は話しているので多少割愛する)

そして後者については特に渋谷だからこそ重要だと考えている。サブスクにより海外のコンテンツへの自由なアクセス権は手に入れることができたが、結局はその時に流行っているものや誰かから勧められたもの、もしくはAIによりサジェストされたものを見ることが多くなっている。その状況は国外問わずそうであるし、だからこそせっかく渋谷を訪れた海外の旅行客に対してはこの場所でしか出会えないようなニッチな偶発的な出会いを生み出すような回遊性が求められていると考えられる。

例えば、海外旅行客向けにその場でDVDを視聴できるプライベートシアタールームを整備する、短期滞在者向けにコンパクトDVDプレイヤー月の2泊3日向けのプランを導入する、空港に回収ボックスを設置する、もしくは選ぶのは物理空間だがレンタル自体は期限付きのデータで実施するなんてことも考えられる。

(もちろんそれ以前にTSUTAYAでレンタルする際に厳格な身分証明やTカードの提示など複雑なステップがあり、そもそもそれが新規顧客を獲得にしにくくなった原因であることもあるので、ここの改善は必須だろう)

ここまで上げてきたインバウンド施策はあくまで例であるが、海外ではその姿を消してしまったタワーレコードが残る渋谷だからこそ、CDやDVDといった物理的な媒体に宿るコンテンツの魅力を再評価できる場所がなくならないで欲しいなと願うばかりである。

おまけ)この話のベースになったのは僕がやっているNHKの番組「ドキュメント72時間」について語るPodcastです。その中ではレンタルが意外と出版やアニメ業界の敵ではないという話をしています。こちらも合わせてぜひ。