「籍を入れる」「入籍」「結婚」
レズビアンである私のこの人生でなければ、こんなにも嫌いにならなかったかもしれない。公平じゃないと知らされるためだけの言葉たち。
私がパートナーと暮らしている場所は微妙な程度の田舎で、日常生活は問題なくできるけれど街に出るには車が必須、という具合の場所。噂話で誰がどう、あの人がこう、そんな会話が常に飛び交うような、いわゆる“保守的”な地域。
レズビアンで女性のパートナーと暮らしていることを周りの人たちに必要に応じて話せるような立場や年齢にはなってきている。でもやっぱり自分が同性愛者であると自覚する前の自分を知っている人たちが多い場所だから、性的指向や生活についてフルオープンにはできずにいる。
地域が違う場所に転勤すれば、結婚しているmiraとして過ごせるのではないか。書類上、法律上の話ではなく、日常会話の中でパートナーの話を隠さず今より簡単に出せるような気がした。
結果、転勤の希望は通らなかった。後から知った話だが、転勤希望にあたって婚約程度では理由として強くないそうだ。「事実婚、あるいは結婚予定による転居のため」という理由では転勤が叶わないらしい。私はこの先ずっとこの保守的な地域に閉じ込められる。ここで独身の女として誰にもお祝いされずに生きていくしかない。
転勤できる可能性にかけて住所を変えておくことも、持ち家を買うことも、そんなリスキーなことをこの地域で思い切ってするつもりはない。かといってまた就職活動というか、転職活動をするような気力もなければスキルもない。
例えば辞職して、お給料が減って、質を下げれば確かに生活はできるかもしれないけれど、きっと家計がギリギリになるし、女二人で生きていくにあたってこの職業を手放すのは痛すぎる。
「大谷翔平、結婚したんだって」
今朝パートナーにそう教えてもらったとき、「ふうん」と返事した声は、強がっているせいか素っ気なく響いてしまった。誰かの結婚を祝える人生なんて、一生来ない気がしている。