Apple Vision Proは夢の万能未来機械…では、ない

MIRO
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…んですよ。

私はレビューについて「気に入ったところ」を中心に書くことがおおいので勘違いされがちですが、Apple Vision Proは夢の万能機械ではありません。すげえなよくできてるなと思うところが当然多いのですが、このへんまだまだだなーと思うところもいっぱいあります。今回は、そういったところを書きます。

ビデオパススルーの品質はとても高いが、万能ではない

Vision Proのビデオパススルーは、Quest 3と比べても非常に高品質で、深度推定も含めてほぼ違和感ない視界が得られています。表示パネルの画素も高密度なので普通に「視界として成立している」のが驚きポイントです。また、自分の手とのオクルージョン、ウインドウその他のオブジェクトが配置されたときの影や反射・透過などの処理、さらにはライティングによって現実空間の色合いも変化するなど、実体とCG空間の融合にもかなりの処理が入っているところも注目に値します。総じて、「自然な視界」を得るためにかなりのコストをかけていることがわかります。

とはいえ、だからといってこの視界が、一度カメラで撮影したものであるという事実が覆ることはありません。ダイナミックレンジ、色域、暗所になるとシャッター速度やノイズなど明らかに品質が下がる、など、「カメラの絵」であることは知覚できてしまいます。そう、知覚「できてしまう」んですね。裸眼と同じとはいきません。

このあたりについては、The Vergeのレビューが、非常にニュートラルかつフェアであると感じています。実際に実物をかぶり使ったあとの自分の感想も、ほぼこのレビューと相違なしという感じです。

ただ、このレビューで触れられていないメリットもあります。私のようにいい年こいてくるとどうしても向き合わなければいけない「老眼」ですが、HMDを通した視界では無縁です。裸眼がフォーカスをあわせるのは固定されたパネルなので、近すぎてピントが合わないとか遠すぎてピントが合わないとかで苦しむことがありません。これだけでもかなり嬉しいものです。

そしてApple Vision Pro経由の視界でスマートフォンの操作もできるし、わりと細かい文字も読めます。が、これも完全にクリアな視界とまではいきません。本当にまったく不自由ない生活をするためのはもう一段階解像感が欲しいところです。ただこのへんはカメラモジュールの性能次第というところもあり、暗所性能向上や画像処理などが組み合わさると、「裸眼超え」の視野を得るという未来も将来はあるだろうなとはおもいます。

視点ポイントは非常に便利で魔法のようだが、万能ではない

これも先にあげたThe Vergeのレビューで触れられていましたが、まったくの同感です。視点による選択、ジェスチャーによる選択はとても便利で、うまく動いている間は魔法のように感じます。が、うまくいかないときはいかないし、本当に細かい部分は選択に困ることもあります。視線というものはけっこう細かく動くもので、あまりみっちりと選択肢が並んでしまうと選びたいものがサッとは選べないんですよ。あと、「選択してタップ」はとっても快適ですが、「スクロール(スワイプ操作)」は手首を持ち上げるちょっとした動作が必要なので、ちょっとしためんどくささを感じたりします。

Apple Vision Pro本体についているカメラから自分の手が見えていないと当然反応はしませんし、細やかさ・正確さでいったらマウス操作には敵いません。ただ、操作がピタっとハマったときは本当に楽なので、だらっとコンテンツを眺めてブラウズするのに視点操作というのはこれはクるな、とはおもいます

装着感はよく出来ているが、不快さが無いわけではない

Apple Vision Proの本体が重い、フロントヘビーというのはよく指摘されることですが、ソロニットバンド(頭頂部の補助バンドがない、後頭部が広いニットの蛇腹になっているタイプのバンド)は意外としっくりきており、よくできています。自分はそれほど重さを感じることはないです。顔の形とライトシール(フェイスパッド)が噛み合っており、ちゃんとした位置にフィッティングされていれば、フェイスパッドと後頭部のニットそれぞれで「面で支える」形に収まるのが効いているのではないかなとおもいます。

ただ、よくできている、とはいえ、不快さが無いというわけではないです。

数時間以上の長時間の装着は可能は可能なんですけれども、外したときにすごい開放感を感じるのもまた事実。この不快感がどこまで軽減できるかというのは、こういったデバイスが「当たり前」になるためにはどこかで越えなければいけないハードルだなあとはおもいます。

アプリケーションはまだ無いし、日本語もつかえない

Apple Vision Proが示す、空間コンピューティングというビジョンを活かすアプリケーションはまだこれからです。いまのところ「大きなモニタとして使える」という用途がいちばん便利に使われていますが、当然その用途だと「大きなモニタを実際に置く」のとコスト・ベネフィット両面で比較されるわけです。そして、先にあげた不快さやビデオパススルーの限界などの面からも利用コストはそれなりにあり、大きなモニタ自体もいまはさほど高いものでもありませんから、あえてVision Proを使う意味というのは(持ち歩ける、という面を除けば)そんなにないよなというのが現実です。

ほかのアプリケーションを並べて使おうにも日本語入力は素直にはできないし、まだまだできることは少ないです。ここから先、Vision Proの特性を活かしたアプリケーション、Meta Questなどとは違う「空間コンピューティング」という世界観を実現する提案がどこまで出てくるか、というのがポイントになるでしょう。

これを買うことを人に薦めるか?

というわけで、「自分は」とても楽しんでいますが、まだまだ人に薦められるものではないです。自分は楽しんでいるので楽しんでいる情報を発信しますし、自分が感じた未来感みたいなものを発信していきますが、みなさんは惑わされて「こんなはずじゃなかった!」みたいな思いをしないようにしてくださいね。

と、今回はネガティブ情報を中心に書いたのでだいぶ厳しい内容になりましたが、まあそれはそれとしてとてもよく出来たデバイスであることには違いないので「ファーストペンギンになれる楽しさ」に価値を見出すタイプのひとにはけっこうおすすめです。おもろいです。

@miro
おもしろいものをつくりたい