なんとなく「ハルヒ」と「それ町」を合わせて滋賀県大津市ローカルな舞台をてんこ盛りにしたような話
主人公の成瀬あかりという女性は頭脳明晰で「だ・である調」で話し、正義感が強く、エキセントリックで、何を考えてるのか良くわからないキャラクター
中学時代から大学時代までけっこう時系列がぽんぽん飛んでいく短編の集まりで、主人公自身の視点ではなくその友人やそれまで全く接点を持っていなかったキャラクターが成瀬と出会うことによってエピソードが語られていく
1巻では幼馴染の親友とコンビを組んでM1予選に出場するというくだりがあるけど、これがズッコケ三人組の傑作回である「うわさのズッコケ株式会社」を思い出してなんかよかった
ふだん学校の中で生活をしている学生が、ふとしたことから実社会の本気のビジネス面に参画するというのが、現実的であり冒険譚である

ズッコケ株式会社、以前に同年代の原宿さんも紹介してたけどほんと子供心に印象に残っている本だなーと思い出す
ざっくり内容を説明すると、地元の漁港が釣りシーズンに釣り客たちで賑わうので、そこで弁当を売れば商売になるんじゃないか?と三人組が仕入れて売ってみたところかなり好評を博して成功する
そこでもっといけるぞ!ということで知性のハカセが株式会社の仕組みで事業することを提案する。クラスメイトから資金を出してもらえばより大きなビジネス展開が可能になるわけだ。リーダーのハチベエは社長に、モーちゃんは営業にということで各キャラクターの役割もぴったりハマって物語が駆動していく
学生のごっこ遊びが本格的な大人社会のシステムに則ることでちゃんと通用する。そもそも学生は保護されているということすら子供の頃には自覚すらしていなかったけど、やすやすと社会や大人という壁を乗り越えた向こう側に進出する彼らの冒険っぷりに興奮してしまう
もちろんうまくいくだけではなく失敗もある。釣りシーズンを見込んだビジネスはやがてシーズンの終わりとともに急速に勢いを失い大量の在庫を抱えてしまう。そういうリスクに直面するところもリアルだ
話は逸れたけど、成瀬のハルヒっぽさって腕章をつけるところにあるなって思う


なんかこう軍人っぽさというか、権威を感じさせる
もちろん現代において女性キャラクターが活動するには外見的に有無を言わせぬ肩書きを示さないと理解を得られずめんどくさいというのはあるだろうし、そうした社会の手続きに則ることを非常に重んじるのが成瀬の特徴だなと感じる
とはいえ成瀬の場合、何かを実力行使するために肩書きを用いる、というよりは肩書きそのものになりたいのではないか、という感じもする
県知事になりたいかと言われればなるだろうし、天皇になりたいかと言われればなるだろう
そこにこのキャラクターの行動原理の得体のしれない超人性というか、人間としての主観の描かれなさがある。引いた視点で見てみると自己を歴史においてどう位置づけるか、みたいな理念があるような気がした
2巻のラストは2023年の大晦日に成瀬が書き置きを残し失踪するという話
成瀬を探すために今までの登場人物が集結するというお祭りエピソードではあるけれど、なぜ居なくなったのか?というミステリとしてもその伏線は一番最初からあったのにはやられた、と思った