「人間以前 (ディック短篇傑作選)」を読んだ

miyaoka
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公開:2025/1/12
  • フィリップ・K・ディックと言えばブレードランナーやトータル・リコール、マイノリティ・リポートといった映画の原作で有名だけど全然読んだことがなかった

  • とりあえず短編集を読んでみたところ、なんだか世にも奇妙な物語というかジョジョの奇妙な冒険といった感じがする。なんとなく抱いていたサイバーパンクSFな印象とはちょっと違った

  • 特に収録順での最初の3作。「地図にない街」では存在しない駅名を尋ねられたことからかつてそうした名前の街が作られる可能性があったこと、そして徐々に現実がその可能性に侵食され始めるという展開はいかにも奇妙さに溢れてるし、「妖精の王」はジョジョ4部のハーヴェストやバッド・カンパニーのようなスタンドを彷彿とさせる

  • 「この卑しい地上に」もジョジョ6部のボヘミアン・ラプソディーみたいに現実が世界規模で塗り替えられていく迫力がある

  • 平凡な街を舞台にしてある日奇妙な現象がとんでもないことになっていく話は、おそらくそこにいろいろコンテキストは込められてるんだろうけどそのへんよく分からなくても面白い

  • 特にジョジョみを感じさせるのはそうした奇妙な出来事が彼我の存亡をかけたバトルに発展するところ。我々が持っている価値観と別の価値観がこの地上に存在していて、それがある日眼前に現れたとき生き残りをかけて容赦なく戦うことになる

  • 後半の「ナニー」において子育てアンドロイド製品同士が破壊し合うというのは商業主義への批判はもちろんあるけど、単純にバトルとしても痛快だなーと思った

  • で、表題作の「人間以前」。中絶の概念が生後の人間(12歳)にまで拡張されたことで保健所が野良犬を殺処分するようにまだ魂の入っていない不要な人間を回収処分するというディストピアな設定

  • 反中絶がテーマに感じられる作品で、今でもアメリカでは中絶禁止思想が盛り上がってるからいかにもアメリカっぽい。改めて調べてみたら中絶が合法化されたのはこの作品が書かれた70年代で、そこから50年くらい経った最近になって改めて中絶反対が支持されるようになったらしい

  • 単に中絶に反対するという話にも見えるけど「人間か人間以前か」という線引きの話は「人間かアンドロイドか」といったテーマにも繋がってくるんだろうなと思った