受刑者の人達にライティング講座を開いた先生が、記憶の再現度がすごいと話していた。過去に向き合わなくてはならない場所と状況だとはいえ、日々ルーティンを繰り返す時間を過ごしていると、記憶が研ぎ澄まされてしまうのだろうか。
小説ハンニバルの中に、レクター博士は脳内に「記憶の宮殿 パレス オブ メモリー」を持っている、という箇所がある。…あったよね？
その箇所を読んで以来、私の頭の中にも記憶の宮殿が建っている。今も増築中で、好きなときに好きな記憶を呼び覚ませるようにしている。
ときどき埃を払うように思い出して、記憶を磨く。
その中には、好きだけではない感情も、辛い気持ちを呼び起こさせる記憶もある。
自分の意思で脳内再生する記憶を選ぶことが出来ないこともままあるが、辛い記憶も「私」の形成に必要なのだと思ってる。
思ってるけど、やっぱり辛いときは辛い。
記憶媒体がアナログだった時代は、テープが劣化したりレコーダーが壊れたりして、辛い記憶から解放されることはあったけど、デジタルの時代はどうなんだろー。
再生繰り返しても鮮明な映像に、気が狂いそうになったりしちゃうのかな…
幸いなことに私の記憶装置はアナログ仕様なので、時と共に記憶も薄れて、朧げな感触だけになっていく。
幸せだった記憶もぼやけてゆくが、そのときの感情の質感だけは薄れない。
あのとき、確かに私は幸せだったな。