2023年11月に、第54回埼玉文学賞・短歌部門にて正賞をいただきました。
夏の庭先に出て
大渕まこ
手も足もまだ名を知らぬ部位だから自由自在にガラガラを持つ
いつの日か懐かしく思うのだろうよだれまみれのあなたの指を
離乳食製氷器から取り出せばいろとりどりの宝石のよう
卵白のアレルギー性が高いらしい孵化することのないゆでたまご
今日言ったおっぱいうんちおちんちん三十三年分より多い
今朝植えたきゅうり支柱に巻き付いて把握反射のようだと思う
ままならぬ日こそ真面目にパンを焼き厚めに切ってバターをのせる
目に見えるものしか信じぬ人たちとわかりあえないコロナ禍の夏
毎日の感染者数知らされずマシンウォッシャブルばかり着る
これからも会うことのない人にさえ好かれたい丁寧なことばで
鉄分のサプリの中のビニールに一粒絡まっている鉄分
ミニトマト南の庭で育てたら口内炎にしみるまぶしさ
ローリエがふわっとかおり太陽を煮詰めたトマトソースができる
梅雨前に蒔かれたバジル鉢植えも地植えも違う大きさである
神様による絶妙な設計図あばらの骨が十二対ある
白秋の「ゆりかごのうた」繰り返す 親になるまで知らないでいた
心音が確かにあなたの心音で生きていることそのものが愛
生後七ヶ月すんなり九時に寝て七ヶ月ぶりにゆっくり話す
一眼でどんな写真を撮るのだろう違う苗字になった妹
帰り道皆が二重の虹を撮るきっとだれもがだれかに送る