第54回埼玉文学賞

大渕まこ
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公開:2025/10/14

2023年11月に、第54回埼玉文学賞・短歌部門にて正賞をいただきました。

夏の庭先に出て

大渕まこ

手も足もまだ名を知らぬ部位だから自由自在にガラガラを持つ

いつの日か懐かしく思うのだろうよだれまみれのあなたの指を

離乳食製氷器から取り出せばいろとりどりの宝石のよう

卵白のアレルギー性が高いらしい孵化することのないゆでたまご

今日言ったおっぱいうんちおちんちん三十三年分より多い

今朝植えたきゅうり支柱に巻き付いて把握反射のようだと思う

ままならぬ日こそ真面目にパンを焼き厚めに切ってバターをのせる

目に見えるものしか信じぬ人たちとわかりあえないコロナ禍の夏

毎日の感染者数知らされずマシンウォッシャブルばかり着る

これからも会うことのない人にさえ好かれたい丁寧なことばで

鉄分のサプリの中のビニールに一粒絡まっている鉄分

ミニトマト南の庭で育てたら口内炎にしみるまぶしさ

ローリエがふわっとかおり太陽を煮詰めたトマトソースができる

梅雨前に蒔かれたバジル鉢植えも地植えも違う大きさである

神様による絶妙な設計図あばらの骨が十二対ある

白秋の「ゆりかごのうた」繰り返す 親になるまで知らないでいた

心音が確かにあなたの心音で生きていることそのものが愛

生後七ヶ月すんなり九時に寝て七ヶ月ぶりにゆっくり話す

一眼でどんな写真を撮るのだろう違う苗字になった妹

帰り道皆が二重の虹を撮るきっとだれもがだれかに送る

@mkofchi
短歌結社・歌林の会、熊谷短歌会に所属しています。