無名の世界

気になるあの子の頭の中は

ふつう ふつう わりと普通

そんな歌詞が、今でもたまに頭の中を流れます。

自分の頭の中身ですらよく分からないのに、誰かの頭の中身が知りたくなる。なんだか無性にそんな気分になったりする、夜。あるいは昼、それとも夕方。

人間が想像しうることは実現しうることとイコールである。そう昔の偉い人が言っていたように、人の想像の世界とは、この広い宇宙をそのまた何倍に大きくしても足りないくらい、広大で奥深いものです。

例えるならば、街中ですれ違う人々。その一人の脳内に宇宙があって、それぞれがその宇宙を育む一人の神様、という感じです。

十人十色の言葉の通り、人が持つ(あるいは人以外も持っているかもしれない)宇宙の輝きは千差万別で、しかもその大部分が秘められているため、その世界の様子をおいそれとは伺い知ることが出来ません。

しかし、そんな他人の脳内世界の様子を、ほんの少しばかり味見する方法があります。

その方法のひとつが、創作。

他人の創った小説、イラスト、音楽、写真、動画、料理、その他諸々、エトセトラ、エトセトラ。

そう言った内なる世界の表出と形成を通じて、私は誰かの心の中にある世界の、ほんの少しのお裾分けを味わうことが出来ます。

それがもし、絶品であれば、多くの人の目に止まって評価されたならば。

それは所謂『名作』として、後世にまで語り継がれる『名のある作品』となります。

しかしそういった名のある作品を創った人にとっても、きっとそのような世に出せた作品はほんの一握りのひとつまみだけで、その裏には山のように積み上げられたボツ作品と、ボツ作品にすらならない幾千数多のアイデアの断片が、無数に存在しているのでしょう。

そう、世の中には誰かの創り上げた作品を通して知ることの出来る『名のある世界』よりも、誰かの頭の中にだけ存在する『無名の世界』の方が遥かに沢山あるはずなのです。

私の場合も例に漏れず、スマホのメモ帳には書きかけの作品の下書きが沢山ありますし、ペン入れの途中で止まっているイラストなんかもあったりします。

そういった作品は、世界は、有名と無名の狭間にあるようなもので、作品として世に出せたならばいいのですが、なかなか納得のいくクオリティにまで仕上げられなかったりします。

よく自分の作品を作り上げるのが大変なことを「難産」などと形容したりしますが、まさしくそんな感じですね。

自分は自分の世界の、そしてそこから生まれる作品の親であり、作品は子ども。

だから早く産んであげたい、けれども出来るだけ、良いクオリティで産んであげたい。

そんな相反する親心が、ときに筆を持つ手を重くしたりします。

書きかけどころではなく、まだ書いてすらいない脳内あいでぃーあの方はもっと切実です。

私の頭の中には素晴らしい世界があって、これを世に出せたならば、万人とは言わずとも、きっと何人かの琴線には触れられるはずと、そんな朧げな確信はあるのに、未だ私の脳内から、外の世界に出してあげられていない。

そんなもどかしさと切なさが、日に何度も胸の中を渦巻いたりします。

そしてそれは、私以外の世界に対してもおなじです。そっちはどちらかと言えば嫉妬に近いでしょうか。

あなたの頭の中にある素敵な世界を、あなただけでひとりじめするなんでズルい。だからほら、書いて。創って。見せて。あなたの頭の中身を、私にもっと味わわせて。

そんな気持ちで齧り付くように、飢えた獣ように、他人の創作に無意識に恋焦がれ、反応で追い求めてしまうのです。

そうです。私はまだ全然、これぽっちも味わい足らなくて、味わわせ足りない。あなたの世界も。私の世界も。

書き上げきれなかったらどうしようとか、書く前に考えても仕方がない。私が初めて書いた(または描いた)作品を、何故書こうと思ったのかは覚えていません。ガヴドロSSも、たまたまアニメのCMを見かけて、たまたま深夜にアニメをリアタイして、たまたまエレファント速報(森きのこの方だったかも?)の二次創作SSを見つけて、読み耽って、気付いたら手が動いていました。

きっと私にとっては、創るのが先で、理由が後なんでしょう。今までも何度かネームとかプロットとか、ロジカルに順序立てた創作を試みた事はありますが、あまり上手く行った記憶はありません。数十回の推敲を経て、勢い任せの初稿に立ち戻ったこと数知れずです。

書けば書くだけ、創れば創れるだけ、ボツなあいでぃーあもわんさか増え続けるでしょう。上等です。それも含めて、私の世界です。

ああ、そう言えば。明日も仕事です。

本当なら今日は少し早めに寝るつもりだったけど、ダメですね。一度書き始めたら止まらない。こればっかりは昔からずっと変わりません。何かに熱中しているときの私は、時間から自由になります。

筆が乗っているときは幸せです。じうすにも匹敵、いや超えていきます。過去も未来もなく、今目の前で紡がれる自分の世界に没頭できる。幸せです。

きっと明日の朝は寝不足ですね……まあいいでしょう。どうせ眠る気のない夜ならば、いっそもっと更けてしまえば面白い。

既にこの記事の最初の方で何を書いていたかあやふやですが、今夜は推敲せずにそのまま〆ようかと思います。ときには勢いも大事だよね。誤字チェック? 知ーらない!

あ、でも流石にタイトルは覚えてますよ。無名の世界。私もまだ名前のない子どもがたくさんいるので、早く名前を付けてあげたいです。

それではおやすみなさい。

え、眠らないって言ってなかったかって? 知らないんですか? 前言は撤回するためにあるんですよ。

それじゃあ、お布団が私を待ってるので……おやすみなさい。