映画『成功したオタク』

mo
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公開:2025/10/21

韓国のオ・セヨン監督によるドキュメンタリー映画。

ある日、推していたアイドルが性犯罪者になった。そこから始まる、推し活をしていたオタクたちの感情を映す映画。

私がこの映画を知ったのは、フォローしている漫画家がこの作品について触れていたからだ。Amazonプライムで2025年の11月1日から無料配信されるという話から、見たほうが良いというツイートと共にタイムラインに流れてきた。調べたところ、有料レンタルができるみたいだったので購入し視聴した。

タイトルの『成功したオタク:성덕(ソンドク)』は、韓国でいうところのトップオタクを意味する単語らしい。推しに認知されていて、お金も時間も注ぎ込んだオタクのことを指す。日本ではトップオタクという単語だけど、向こうでは「成功したオタク」という意味合いになるのだなと、なんだか不思議な気持ちになった。

映画の内容は監督がソンドクになった流れと、当時の映像を挟みながら、基本的には推しが性犯罪者になって以降のオタクたちに密着した映像で構成されている。

映画の中で犯罪の内容について深く触れられることはなく、全員が事件のことを知っている前提で進んでいく。

後に調べて、韓国で起きた「バーニング・サン事件」と、それらに関わっていたアイドルを推していたオタクをそれぞれインタビューしていたのだと分かった。全員が同じアイドルの話をしていたわけではないことはなんとなく映像から分かったものの、若干その辺りの理解があやふやだったので、事件のことを理解してからは意味が分かるようになった。

作中でグッズを捨てよう、と同じ事件に関与したアイドルのオタク同士でグッズの整理をするシーンがなんだか生々しくて辛かった。グッズ整理をしていくうちに、そのグッズにまつわる思い出を語っていて。そのうちに、やっぱりこれは大切なものだからしまっておこう、となっていくのだ。

アイドルに対しては冷めているのに。裁判所に行って公判を聞くほどに関心を寄せてしまう。「犯罪行為を行った人間を応援することは、犯罪を肯定するも同然である」という意識があるから、彼女たちは罪を犯したアイドルに対して怒っているし、悲しんでいる。

「被害者は性犯罪に遭った女性だけじゃない、私達ファンも被害者だ」という言葉も辛かった。ずっと応援していたアイドルが犯罪者になるだなんて、分かっていて推す人は稀だろう。推しが罪を犯した瞬間から、自分たちはアイドルのファンから犯罪者のファンになってしまう。ファンをやめなければ犯罪行為を肯定するも同然だ、という周囲からの目もあり、急に肩身が狭くなるのだ。自分は何もしていないのに。ただファン活動をしていたら、ある時推しが犯罪者になる。やりきれないのではないだろうか。

だからといって、アイドルを推していた時間や、アイドルに声をかけてもらった言葉や思い出は彼女たちにとって美しいものであることは変わらない。思い出を捨てることができないことも、紐づいている大切な思い出の推しが犯罪者になってしまったという事実も、辛いことだと思う。他人事ながら、なんとも言えない気持ちになった。

「遵法意識を持ってください」

映画の中で繰り返し出てくるフレーズだ。私自身も心からそう思う。

同時に、あまり日本では聞かない単語だとも思った。そもそも、日本では性犯罪が性犯罪として認知されるハードルが高いからも影響してそうではあるが。立件が難しいからなのだろう。その辺りにまで踏み込むと主題からずれてしまうのでこの記事ではここまでで。話を映画に戻そう。

韓国では性犯罪の再犯防止のために足輪をつけるのだという。作中でも、「足輪をつけて正しく生活してほしい」という言葉が出てきた。遵法意識を持って、正しく生きてほしい。間違っていないんだけど、なんだかそこに言語化の難しい感情が伴っているようにも感じた。愛情と言い切るにはもう諦めていて、でも、彼女たちの感情の発露として一番やさしい言葉だとも思う。

「アイドルは神であり世界を作っているのだから、それを守り続けてほしい。人間であると気づかせないでほしい」

その意識を持ってアイドルを推している、という事実に衝撃を受けた。アイドルは別世界の存在で、同じ人間ではないという認識。たしかに、完璧に作り上げられたアイドル像ならそうもなるのかもしれない。自分はあまり三次元に興味がないし、三次元アイドルに対しても同様にそこまで興味がないから、理解が難しい感情ではあるのだけど。信じていた世界を壊さないでほしい、という意味ではとても理解はできる。

生きている人間を推すということの怖さ、推し活について色々と考えさせられる映像だった。

もう二度と推し活なんてしないと言っていた人たちも、映画の最後にはちゃんと新しい推しを見つけていて、それがなんだかオタクの強さだな、と感じられて良かった。

いま、推しがいる人は、推している日々が一日でも良き日であればいいなと思う。

@mochimochi_ya
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