花びら餅

正月に奈良に行った。朝の街を歩くと、いくつかの和菓子屋の店先に「花びら餅あります」と張り紙がしてある。奈良には花びら餅という名物があるのかと思った。その日は山の奥にある寺を訪ねることにしており、市内に戻ったのは日もすっかり暮れるころだった。夜の奈良は底冷えがした。店は軒並み閉まっていた。

数日後、東京に帰ってきて、いつもの駅へ向かう途中にある和菓子屋のショーウィンドウに、花びら餅の名前を再び見つけた。どうやら、奈良の名物というわけではなかったらしい。買った。店主が渡してくれた小冊子に、この菓子の謂れが書いてある。平安時代の宮中で、正月に「お歯固め」の儀式として硬いものを食べ、長寿を願うという風習があった。明治以降、これを和菓子の形に仕立てたものが花びら餅の名で親しまれるようになったという。意外と最近の食べ物だった。地元では見たことがない。

花びら餅は、柔らかい餅の間に甘く煮たごぼうと味噌餡が入っていて、大変おいしかった。師匠によれば、虎屋のものが一番旨いという。来年の正月が楽しみだ。