映画:ペインキラー「合法の薬でなぜ大勢が死ぬのか」

moemoe
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公開:2024/7/4

アメリカで違法薬物依存者が多いわけ=サックラー家という名家が営むパーデュー製薬会社が麻薬を売り、政府もそれを認めていたから

この日記は、ドラマに基づくものだから、正確な情報はこっち

米製薬パーデュー、鎮痛剤めぐる巨額和解で有罪認める方針 オピオイド訴訟 - BBCニュース

留学に来て100日。薬でキマっている人を見ない日はないと言っても過言ではないくらい、アメリカ人は薬に侵されている。ラスベガスを訪れた時には、街自体が薬のにおい。喫煙可だった昭和のような光景が広がっていた。すれ違う人は、片手に麻薬。道路の隅に固まって吸っている集団。なぜアメリカにはここまで多くの麻薬中毒者がいるのか。その答えが分かると謳う映画を見つけたから見てみた。

『ペイン・キラー』は、アメリカのオピオイド危機の起源とその後の影響を描いたシリーズ。加害者、被害者、正義、加担していく若者の4つ視点から描かれている。主人公は不在。だから、見る人によってハッピーエンドにも、バッドエンドにも感じられる作品。

製薬会社パーデュー・ファーマが製造販売した、オピオイド系処方鎮痛剤「オキシコンチン」。1990年代後半から現在に至るまで、服用者50万人以上が亡くなった。 最大の問題は、この薬が合法であるという事。本来であれば裏社会で流通するオキシコンチンを、表社会である政府機関のFDA(米食品医薬品局)が承認しているのだ。それゆえ、多くの医者、薬局が処方していた。中毒になる確率は1%以下と宣伝していたが、現実は多くの中毒者を生み、大勢の命を奪った。

感想は、最高。一番好きなドラマになった。現実的で綺麗事がなく、不可解なところがすべて解決する終わり方。賢い頭脳戦。この3つが揃うなんて!

そもそもなぜ、大手製薬会社が麻薬を売ろうとしたのか。なぜ最初はただのモルヒネだと批判した医者らが処方を認め始めたのか。どのようにしてきれいな女性ばかりを雇用できたのか。(ちなみに:製薬会社の営業職が医者相手に薬を売り込むという営業モデルはリチャード・サックラー(製薬会社社長)が確立したスタイルだと言われている。らしい)服用者の暴動が顕在化してきてもなお、内部告発者が出なかったのはなぜか。なぜ、ここまで被害が出てもなお、検挙できないのか。 こんな疑問が目まぐるしく、4つの視点から臨場感たっぷりで描かれていく。そして、最後にはすべて回収される。

現実に基づいた話だけど、どこまでが現実でどこからが脚色かわからないってのを前提に読んでね

なぜ製薬会社が麻薬を売ろうとしたのか:

一家の大黒柱である前社長が急死。子供らは、遺産相続で儲かると思った矢先、親の会社は利益より負債の方が発覚。そこで、人間のあるサイクルに気が付く。「痛みー快楽」人間はこれを繰り返しているという。そこで、強い快楽を与える鎮痛剤を作れば、多くの患者に売れると確信した。麻薬を作ろうという完全な悪意から始まった話ではないが、事故ともいえない。

多くの医者が認めた理由:

人間を説得する際、説得相手をよく知る必要がある。特に知るべき項目は「MICE」

M:Money(お金)いくらほしいの

I :Ideology(信念)何を信じているのか

C:Coercion(恐怖):何を怖がるのか

E:Ego(エゴ)何が自尊心をくすぐるのか

経営陣に心理学の専門家がいた。その人が中心となり、多くの医者に薬を承認させていく。最も用いたのが、自尊心。医師らにさらなる論文を書かせたり、社員一同でテレビ電話をつないだり、多くの女性を医者のもとへ派遣したりした。一人でも落とせたら、あとは簡単だった。また、勝手にテレビ電話をつないだり、不可解な事件を医師たちの周りで起こすなども行っていた。

どのようにしてきれいな女性ばかりを雇用できたのか:

元々名の知れた会社であった。リクルーターたちは大学に行き、講演会を積極的に行った。いわば、マルチのように勧誘していった。豪華な生活をみせ、今の生活に不満を抱かせた。そして、入ってきた女の子の中でとりわけかわいい子には、家さへ与えた。また、一人に一人の上司を与え、信頼関係を築かせた。その上司は、自分の部下が稼いだ分はバックとして利益を得ていたため、熱心に教育を行った。

服用者の暴動が顕在化してきてもなお、内部告発者が出なかったのはなぜか。

多額の報酬がもらえていた事。に加え、従業員らほとんどが、自社製品の中毒者であった。自ら気づき吸い始めたものもいるが、幹部など高い地位だが一家のものでないものには、研究と称し、定期的に飲ませていた。実際、内通者が現れたが、弁護士に情報が渡る前にオーバードーズで命を落とす。

なぜ検挙できない:

中毒になった患者は、モルヒネや他の違法薬物にも手を出していたことで、死因がオピオイドだと確定することが非常に難しかった。薬自体が悪いのではなく、正しく服用できない患者が悪だという認識であった。依存=新たな病気。患者の責任という認識の国であったことも大きい。また、裁判沙汰に一度できたが、サックラー家は敏腕弁護士を雇い、勝つことができなかった。実際その弁護士らは、9・11や政府の弁護士であり、勝つことは容易ではなった。

結末:

結局、だれも実刑は食らっていない。会社の幹部は法的責任を問われた。毎日40人以上が過剰摂取で亡くなっている現状。パーデュー社の破産申請は未だ保留中。結末は現実にある。

個人的に感じた面白さは、現実性。結局人間はどこまで行っても欲深いし、結局自分とした約束すら守れない。

欲: 社長らが守ろうとしたのは、名誉でも、お金でも、もちろん患者でもない。名前である。この会社は、サックラー家という一族が営んでおり、歴代、美術館や学校などに一家の名前を刻んでいた。社長は、名誉、金、成功すべてを手に入れていた。だが、死んだはずの叔父に「名前を汚すな」と何度も叫ばれているかのような幻聴、幻覚に日々悩まされていた。だからこそ、和解金、違約金を拒み、善人であるかのようにふるまい続けていた。

弱さ: 中毒者の家族も出てくる。父のヤク中で家庭は崩壊。だが、やり直した。解毒を行い、別の薬に変えた。友人と支えあって、依存生活から抜けた。順風満帆な生活を取り戻した。薬を買うために営んでいた会社をたたんだが、再出発。絶縁された家族とも会うことを許され始めた。そして、やっと一緒にご飯を食べることに。だがその前日の夜、父は隣人の騒音問題を注意しに隣人宅を訪れるのだが、自分が飲んでいた薬を過剰摂取し、なくなっている隣人を目にする。そして、その場で、迷うことなく残った薬を摂取。そのままオーバードーズとなる。そしてあっけなく死ぬ。

アメリカの薬中の背景には、今も起訴されていない製薬会社があった。心理学、経営学に優れ、お金もあったサックラー家は巧に世の中に麻薬を売り込んでいった。司法では勝てなかった。