元データが飛んでいったのでうろ覚えで加筆。
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鉄球を壁にぶつけるような轟音が数回家に響き、面倒ごとの気配を察知した彼は作業道具を片付けて玄関へと向かった。
訪問者には見当がついている。十中八九、トラブルの申し子である彼女だろう。無視を決め込んでも良かったのだが、今までの経験中放っておくと碌なことにならない。家が。
「おい、扉を蹴るなと何度言ったら──は?」
彼が渋々と扉を開けると、目の前に巨大なカボチャ人間が現れた。もう一度確認する。巨大なカボチャに両足を生やしたような不思議生物が、扉の前に立っていた。
「かぼちゃをもらってしまった」
呆然と目の前の生物を見つめる彼。己の声が聞こえていないと思ったのか、カボチャの隙間からひょこりと見知った顔が覗く。どうやら、野菜が大きすぎて訪問者の姿が隠れてしまっていたらしい。
「かぼちゃを、もらってしまった」
「いや復唱して欲しかった訳じゃねえわ」
「そう?そうか」
「……あー、とりあえず置け。重いだろ」
「うん。よいしょー」
気の抜ける掛け声を合図に、彼女と共に巨大なカボチャを支えていた炎の召喚獣が両手を離す。カボチャは勢いをつけて地面に落ち、室内に鈍い音が響いた。
「おい少しは加減しろ。床が割れる。てか、今のでカボチャも割れたんじゃないか」
「まじか。ごめん。床とかぼちゃにフィジクかけておこう。……うん、大丈夫みたいだ」
「それ意味ないだろ。で、何しに来たんだ」
「ああ、そうだ。忘れていた。これ、料理してくれないかな」
これ、と。床で強烈な存在感を放つ野菜を指差して、彼女は小首を傾げる。
「……は?」
「かぼちゃ。料理してくれないかな?」
彼は頭痛を和らげるように己の額を抑え、不思議そうに瞬きを繰り返す彼女に尋ねる。
「もう一度だけ言ってみろ。何だって?これを料理するのか?誰が」
「君が」
「何処で」
「ここで?」
「……本気か?」
「失礼だな、ル・ヴァル・ティア。私はいつも本気の本気だとも!」
彼女は腰に手を当てて自信に満ちた声で宣言する。彼女の動きに合わせるように、彼女の隣に並んでいた炎の召喚獣もまた、己の腰に手を当てて胸を張ってみせた。なんだ、その自信はどこから来るんだ。
「普段から言動がマジじゃねえから言ってんだよ。オレは忙しいんだ。他を当たれ」
「そうか。仕方ない」
「ああ、そして速やかに出ていけ」
"しっしっ"と、追い払うように手を動かして、彼は居間へと引き返そうとし、
「うん。台所借りていい?」
彼女の言葉に静止して、その場で崩れ落ちた。
「どうして、そう、なるんだ」
「だって君は料理してくれないんだろう?」
「ああそうだな。そう言った」
「なら、私が料理すれば良いってことだ」
「冗談はお前のクラフターレベルを見直してからにしろ」
立ち上がった彼が再び彼女に向き直る。彼女は、思案するように己の口元に手を当てていた。
「うん。確かにオールゼロだけれども」
「自信満々に言うことじゃねえんだよ。うちの台所爆破したの忘れてないとは言わせねえぞ」
「その節は誠に申し訳なかったと思っている。けど今度は大丈夫。ちゃんと加工精度上げる料理持参してきた」
ほら、と。彼女が差し出したのはチャイ・トゥ・ヴヌー。クラフターのスタート地点にも立っていない人間が飲む調理品としては勿体無くないか。いや、そもそも。
「まずは品質よりも完成を目標にしろこのへっぽこが。…………はあ、待ってろ。簡単なものなら作ってやる」
「おお、ありがとう。……けど、突然どういう心変わり?」
「台所の安全と料理の面倒さを天秤にかけた結果だ。台所に感謝するんだな」
「おお、ありがとう。ヴァルくんちの台所」