徐京植『回想と対話』

mongnyeon
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徐京植さんが存命中に取り組まれたテーマは多岐にわたり、多くは人間による人間性のあらゆる破壊行為を批判、そして上からの圧力によらない自由のすがたを追求しようともしている。その意味でも、植民地主義に端を発する問題が世界中で目に映るいま、心して読むひつようがあると思いながら読んでいる。

コレクションに収録の「最終講義」はとくに、徐さんが語られるときの表情や、それまでに学生たちとどのようにかかわってきたかということが感じられるようで印象に残った。授業のおわりに、徐さんはなげかける。「美術館に行きましょう。絵をみおわったら、売店であなたがいいとおもうはがきを二枚、買ってみましょう」。

個人の価値観というのは、国や所属する組織など、とにかく大きな存在に支配されてしまいがちなものでもある。そうした支配に「それでも、」と不同意を貫き、ただひとりでそこに立ったとき、わたしはなにを美しいとおもい、なにをいいとおもうか。

一枚は、そうした「わたしひとり」のなにかを、自分で確認するために。もう一枚は、それを親しいだれかに送るために。自分の感じたこと、自分の感覚を、信頼できるひとに明かしてごらん、とおっしゃっている。それは自分じしんを大切にするためのエクササイズであり、この週末にもやってみたくなるような気楽さをも感じられた。