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vol.30 戦争と読書とエンタメと

守宮泉
·
公開:2026/9/13

一ヵ月、本を読みながら生活している守宮の様子をお届けします。

日中は暑いけれど、朝と夜には涼しい風が吹くようになってきました。赤とんぼが飛んでいて、旧暦上では秋なのだと実感します。


月刊読書日記(8/1-8/31)

8月は、戦争のことを考える。生まれ育った場所では毎年、登校日に戦争について学ぶため、半ば刷り込まれていると言ってもいいかもしれないが、悪いことではないと考えている。一年に一度くらい、しっかり考える期間があってもいい。

戦争について、書かれた本はたくさんある。私は小説という媒体で描かれたものを読むことが多い。そのものに対峙したことのない私にとって、作者の主観を借りて感じる手法が合っている気がするからだ。

とか書いたが、実際に戦争関連の本は1冊しか読まなかった。

どちらかといえば、NHKのドキュメンタリーを見たり、長崎の平和祈念式典を見たり、映像で感じることが多かったかもしれない。

村田喜代子『姉の島』は、八十五歳になった海女に歳が加えられるところから始まる。実年齢を倍にする「倍暦」という習わしは、神功皇后が海で働く海女にくださったことから始まるという。天皇の話に始まり、海中の地図を描き始める海女たちは、海に沈んだ潜水艦を見に行こうと思いつく。結構突拍子のない話だけれど、少女のような快活さと昔を想う郷愁とが綯い交ぜになっている文章にどんどん連れて行かれるような気がした。暗い暗い海の底に、潜っていく心境はいかほどのものか。私にはわからないけれど、海で生まれ、海で育ち、海で仕事をしてきた彼女たちにとっては、何よりも大切なものだったのだろうと思う。人生の中に戦争が存在している以上、明るいだけの話ではない。でも、元気な「姉さ」たちを見ているのが楽しかった。


同時に行っていたのが、エンタメ小説を読むという取り組みである。私はどちらかといえば純文学(と呼ばれているもの)とか、なんだか少し引っかかる話(私は桜庭一樹さんにならって「へんな話」と呼んでいる。以下、「」なしで記す)とか、明治~昭和あたりの話とか、世間一般で話題になっていない小説を読むことが多い。世間一般のことを知るためには、何が流行っているのかを知るのも大切だろう、ということでエンタメ小説強化月間としていた。

読んだものとしては、以下の通りである。

・瀬尾まいこ『傑作はまだ』

・朝井リョウ『死にがいを求めて生きているの』

・伊与原新『リケジョ!』

・伊与原新『翠雨の人』*1

エンタメというほどエンタメではなかったかもしれない。朝井リョウの作品は、エンタメの皮を被った純文学だったような気もしている。エンタメの定義を揺るがされる小説だった。結構、エンタメの皮を被った思想推しの小説もあるのだろう。伊与原新の作品も、どちらかといえば私好みの思想推し。女性が楽しく学ぶ姿を見るのが好きな私にとって、とても楽しい小説だった。瀬尾まいこの作品は、のんびり読めるようで、たまにぐさりと刺してくるような描写が隠れている。しかし、誰も不幸にはならず、ほっとした記憶がある。よかったよかった、で終わってよかった。包容力のある登場人物たちがとっても優しく感じた。

取り組みを終えて一番思い知ったのは、バランスよく読むのがいい、ということだ。エンタメ小説ばかり読んでいたからか、何か物足りない気持ちになって読書に身が入らない、という日があった。「本が読みたい」という気持ちが先行して空回ってしまっているのかと思ったが、少し違う。たぶん、力が入りすぎていた。

なんとか読めたエッセイ本に書かれていたことから連想して、『少年になり、本を買うのだ』を開いて少し読んだあとなんだかほっとした。私好みのへんな話がたくさん載っているこの本が、私の力を抜いてくれた気がした。ちょうど、岡本かの子の恋愛小説短編集を読み終え、読み途中のへんな話がなくなってしまったところだった。

どうやら私には、かなり気合いを入れないと読めない本があるらしい。エンタメ小説は、作品による、という感じ。うまく読み進められないときは、知らず知らずのうちに、身体に力が入っている気がしないでもない。

あと、個人的に興味深かったのは、中学からの友人とまるで読書の好みが合っていない、という結論に辿り着いたことである。友人はハッピーエンドなエンタメが好きで、私は比較的好みの分かれる感じの純文学寄りの物語が好き。だが、お互いに好みを知っていると、「これは好きそう」「これは違うな」がなんとなくわかってくるのがおもしろい。結局、SFの好みは素晴らしく合致していることがわかった(逆に言うとそこだけとも言える)。好みの違う人間と本の話をするの、おもしろすぎる……! となったので、私は別に自分の好みが広まってほしいとは思っていないのだと思う。どちらかというと、好みの本はひっそりと楽しみたい(友人とは楽しみ方も異なっている)。だからだろうか、自分の"好き"に対して胸を張れないのは。胸を張るものでもない、と思っているのかもしれない。「好きな本はなんですか」という質問にはいつも怖じ気づいている。

日記を書いている現時点(9月8日)では、ようやく"好き"の欠片を発見している。私も実はエンタメが好きだった、という話は、次回の日記で詳しく書こうと思う。

*1 よくよく考えるとエンタメ枠ではないかもしれない。「波」で連載していたようだし……。

@morimiya
本をよく読みます。多言語世界で生きていきたい人です。 Bluesky bsky.app/profile/moriizu.bsky.social