円城塔作品が気になっているけれど、何から読めばいいだろうか? というリクエストがあったので、おすすめ作品を考慮して挙げていく。リンクはAmazonのアフィリエイト。
まずはここから『文字渦』
振れ幅の大きな短編集で作風をつかめ!『バナナ剥きには最適の日々』
SF系のクールな作品が好きなら『Boy's Surface』
幻想文学系のシックな作品がハマれば『これはペンです』
難しいのはわからん!エンタメがいい!なら『屍者の帝国』
円城塔ってどんな人?!が気になるなら『読書で離婚を考えた。』
そして最新作へ『コード・ブッダ 機械仏教史縁起』
まずはここから『文字渦』
ふりがな部分が独立して本文を侵食してしまう収録作が話題になった、文字が主役の連作短編集。電子版の文字組が相当大変だったようだが、見事リリースされているため、文庫でも電子でも買える。
雰囲気だけは中国故事風、という円城お得意の「真面目腐った顔で飄々と放つ本当っぽい大嘘」の小品が多く、SFとしても幻想文学としても楽しめるので、これを最初の作品として薦めたい。中島敦が好きな人は文体にノれるだろうし、ボルヘスが好きな人なら「本当っぽいけど本当じゃないのでは」感がおもしろいかと思う。
振れ幅の大きな短編集で作風をつかめ!『バナナ剥きには最適の日々』
さて、次の手は悩ましいが、いきなり長いものや複雑な構造のものを読んでも円城が苦手になってしまうだろうので、短編を薦める。
これはハヤカワSF文庫で出ているが、内容的には幅広くハードなSFから雰囲気のある純文学風まで含まれているので、ひととおり読んでみてどれが好きなのか検討するのに良いと思う。タイトルはもちろん、サリンジャー『バナナフィッシュにうってつけの日』からだし、サイエンスとか難しいのは読めないよという方面にも向く作品は(円城にしては比較的)多い。個人的には『祖母の記憶』が好き。
SF系のクールな作品が好きなら『Boy's Surface』
いやーこれ、好きなんだよ!! こういうのがたまんねえんだ……。円城はハードSFが得意なのでバキバキの理系トリック作品は多いが、単に好きなのでこれを挙げた。『バナナ剥き〜』でSF系の作品が気に入ったら、できればこちらの文庫版を買ってほしい。
ちなみに、これが読めれば、このあとは円城作品の何を読んでも大丈夫だと思う。これが難しい場合はSF系統は避け、文芸寄りの作品をあたろう。
幻想文学系のシックな作品がハマれば『これはペンです』
『バナナ剥き〜』で幻想文学系の作品が気になったら、次はこちらかと。そうは言い条(!)、ややSFとしての仕掛けを含んだ小説ではあるが、情感ゆたかで不思議な温かみがあるため、読み心地を味わう楽しみをもつ。文庫版は高野文子の表紙画も美しく、モノとして所有する嬉しさが大きい。
難しいのはわからん!エンタメがいい!なら『屍者の帝国』
純粋な円城作品ではなく、故・伊藤計劃の遺作を引き継いで完成させた長編。そのため普段と大幅に作風が異なるが、円城の筆ではあり、科学的な楽しさと小説としての美しさの融合は彼ら二人ともの特徴であるため、ここに挙げた。
『フランケンシュタイン』の技術が実現した19世紀、『シャーロック・ホームズの冒険』のワトソンを主人公に動き出すゴシック・パンク・サスペンスSF! とでも言おうか。それらの古典に加え、『カラマーゾフの兄弟』を読んでいるとより楽しめる。
円城塔ってどんな人?!が気になるなら『読書で離婚を考えた。』
さて、ここまでいくつかの作品に挑戦したけど挫折したとか、読んでもちっともわからないとか、そのようなかたも多数おられよう。「こんな小説を書いているのはいったいどんな人なの?!」という疑問が当然あると思うので、その向きにはこちらの本を。円城と、パートナーで怪談作家の田辺氏が、お互いに相手に本を薦め合う交換日記のような作品なので、普通にするっと読めて安心だ。ちなみに、この夫婦のことをもっと知りたくなった場合は、田辺青蛙『モルテンおいしいですq』の購入を強く薦める。
そして最新作へ『コード・ブッダ 機械仏教史縁起』
円城塔っていいかも! と思ってきてしまった奇特な同志には、9月に新刊がリリースされることをお知らせして、結びの言葉としよう。機械知能が信仰する仏教の話らしい。円城が相変わらずお元気そうで何よりである。
以上、円城塔の入門セレクションでした。よき円城塔ファンライフをお送りください。