怖かった……
わかりやすい幽霊や怪奇現象が「バン!」と出てきて「コワい!」となるような作品ではなかった。じわじわと、人が、場所が、理が、おかしくなっていく。寒気を覚えながら読む羽目になってしまった。
渋谷駅の再開発事業を手掛ける企業に勤めている主人公が、現場の地下深くに鎮座する巨大な穴とその中で鎖に繋がれている男を発見し、鎖を解いて男を解放することをきっかけとして様々な異変が始まる。
しかし冷静になって考えてみれば、そんな場所で鎖に繋がれている男を発見したとしても「大変だ、助けてあげなければ」と即決するだろうか。主人公の生い立ちは作中でもはっきりとは言及されないが、本作の導入に至る根本的なきっかけはもっと以前に存在していたのだろうと考えている。
また、舞台を東京に設定したことで、絶えることのない明かりや喧噪の裏に息づく畏ろしい存在との紙一重感が表れており、そんな現代だからこそ尊重し敬うべきモノを忘れてはならないのだと印象づけられた。加えてその土地の歴史が組み込まれていたことも興味深い点だった。『火事と喧嘩は江戸の華』などと言われるように、江戸(東京)と火事とは関りが深い。タイトルの『骨灰』とはなんなのか。それが開示された時はゾッとした。
メタ的な視点になってしまうが、こういった作品には『助けを求めるべき相手』と『助けを求めるべきタイミング』が存在し、そのどちらかでも間違ってしまえばバッドエンドというパターンが多いだろう。実際に「誰に電話すべきだろう」と迷うシーンが本作には存在する。主人公がそれらを正しく判断できたかどうかは伏せておくが、読者の私は判断を誤った。読了後に思えば正しい答えを理解できるのだが、焦っていると言ってもいいほど夢中になって読み進めていたためだろうと思う。
さいごに、作中の台詞を引用する。『おわかり頂けると思いますが、祟りというのは、そういうものです。因縁によって広がります。善悪じゃないんです。』…酷くタチの悪いドンモモタロウのようだ。(※暴太郎戦隊ドンブラザーズを参照)
本作を読むことで、読者にもその因縁が生まれないことを切に願うばかりである。