どんな時代だった?
要約
戦後の経済復興を経て、日本を中心に品質向上運動が広まった時代
欧米に比べ後発の日本企業は、品質向上によるコストダウンと顧客満足度向上で国際競争力を高める必要があった
特に1970年代後半からは、日本的品質管理手法が世界的に高く評価され注目を集めた
経済的背景
戦後の焼け野原からの復興を経て、1960年代後半から高度経済成長期に入った
しかし、資源の乏しい日本は、付加価値の高い製品作りで国際競争力を高めることが課題だった
1970年代の二度にわたるオイルショックは、無駄のないものづくりを追求する契機となった
文化的背景
戦後の倫理観の転換から、従来の家族主義から個人主義に移行し始めた
しかし、終身雇用・年功序列の日本的雇用慣行が色濃く残り、企業への帰属意識が強かった
このため、QCサークル活動など参加型の品質向上活動が定着しやすい環境があった
国を挙げての「品質第一」「近づれば理解できる」といった精神が浸透した
技術的背景
トランジスタ等の電子部品の発達で、製品の高機能化が進んだ
一方で製品の複雑化が進み、徹底した品質管理が必要不可欠となった
コンピューターの発達により、統計的手法の品質管理への適用が容易になった
この時代において、「生産性の向上」とは何であったか?
生産性=品質向上による顧客満足度の向上と原価低減、およびコストリーダーシップの確立
なぜ品質向上が必要だったか?
製品の不具合による顧客クレームの増加と、それに伴う大きなコスト増が企業を直撃していたため
なぜコスト削減が必要だったか?
戦後の経済復興期に、限られた資源で付加価値の高い製品作りが求められていたため また、後発企業グループとして、欧米先進国に比べ価格競争力確保が重要だったため
なぜ顧客満足度の向上が重要だったか?
国内需要が一巡した後、海外市場での販路開拓が不可欠となり、顧客ニーズに沿った高品質製品の提供が勝負だったため
なぜコストリーダーシップが重要だったか?
資源の乏しい日本では、国内外の価格競争力確保のため、低コスト生産によるコストリーダーシップの確立が不可欠だったため
国内市場での価格競争力確保
資源が乏しいがゆえに、原材料コストが高くつきやすい
低コスト生産によるコストダウンが、国内市場での価格競争力の源泉となった
輸出産業としての国際競争力確保
資源制約国である日本では、海外からの調達コストが高くつきやすい
製造コストを低く抑えてコストリーダーシップを確立することが、輸出産業として海外企業に打ち勝つ上で重要だった
「生産性を高める」ための活動
統計的品質管理(SQC)の導入(管理図による工程管理、抜取り検査の徹底など)
Why
製品の不具合や工程の異常を早期に発見し、予防措置を講じるため
What
管理図による工程データの監視、抜取り検査の実施など
How
品質管理部門が中心となり、作業者への教育を実施
統計的手法の理解浸透に注力
全社的品質管理(TQC/TQM)の展開(QCサークル活動、品質展開など)
Why
経営層から現場までを巻き込んだ全社的な品質向上活動を行うため
What
QCサークル活動、品質展開(製品設計における品質要求の反映)など
How
トップダウンとボトムアップを併せ持つ全社的な品質管理体制を構築
現場の自主活動を重視
カイゼン(小さな継続的な改善活動)の推進
Why
日々の小さな改善の積み重ねで、大きな品質向上とコストダウンを実現するため
What
現場作業者による業務の改善提案活動など
How
経営層から改善マインドの浸透を図り、報償制度の整備などで活動を後押し
ジャストインタイム生産方式の導入
Why
過剰在庫を削減し、無駄を徹底的に排除することで品質向上とコストダウンを図るため
What
工程間の素材の行き来の最小化、kanban方式による上流工程の指示出しなど
How
生産現場へのラインの再レイアウトや作業の細分化、関連企業との連携強化など
その結果どうなった?
製品の信頼性と耐久性が飛躍的に向上し、日本製品の品質が世界的に高い評価を得た
顧客満足度の向上により、自動車や家電などで日本企業が国際市場でシェアを大きく伸ばした
不具合品の大幅削減や在庫削減などによる無駄の削減で、大きなコストダウンが実現した
一方で作業の細分化が進み、労働の単純化・画一化が課題となった
事例
トヨタ自動車
Before
品質トラブルや納期遅れが多発していた
ラインの稼働率が低く、生産性が低迷していた
作業者のモチベーションが低く、改善への関与が乏しかった
変えたこと
「トヨタ生産方式」を構築し、以下の考え方・手法を導入
ジャストインタイム(JIT)による在庫削減と滞りない生産
自働化(ジドーカ)による異常の早期発見と止める仕組み
見える化によるムダの徹底排除
QCサークル活動を全社的に推進し、作業者の改善提案を促した
作業の標準化と繰り返し訓練(熟練)を重視
After
品質と生産性が飛躍的に向上した
完成車の不良率が1/20に低下(1970年代)
リードタイムが大幅に短縮
リーン生産体制の確立により、コスト競争力が飛躍的に向上
作業者の主体性と現場力が大幅に強化された
年間120万件以上の改善提案が現場から上がるように
トヨタ生産方式は「無駄の徹底排除」「持続的改善」を体現する革新的なモデルとなった
参考:トヨタ企業サイト