製造業における「生産性向上」のこれまでとこれから②(工場制機械工業の発展期(20世紀初頭)編)

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どんな時代だった?

  • 産業革命以降の大きな転換期

    • 生産方式の変化

      • 手工業から機械による量産体制へ移行した

    • 労働環境の変化

      • 機械化による単純作業の増加で、労働者の熟練が不要になった

      • 長時間労働、低賃金など、劣悪な労働環境が生まれた

    • 科学的管理法の台頭

      • フレデリック・ウィンスロー・テイラーが科学的管理法(生産管理・作業研究)を提唱

      • 分業化と標準化によるムダ排除と能率化を追求した

科学的管理法の台頭(フレデリック・ウィンスロー・テイラー)

  • どういうこと?

    • 労働現場の課題に着目し、作業の効率化と公平な労務管理、協調体制の構築などを通じて、労働者の意欲と生産性の向上を目指した

      • 科学的な方法で作業を分析・標準化することで、ムダを除去し、生産性を高めようとした

      • 科学的な方法で公平な賃金と労働条件を設定することで、対立を解消し、協調体制を作り出そうとした

  • なぜ普及した?何に効いた?

    • 工場制度と機械化の浸透が進む中で、労働環境の悪化や労働者の不満が高まり、対立が避けられなくなっていった

      • 労働環境の悪化

        • 環境の未整備

          • 工場制度や機械化の導入初期であり、作業の標準化が進んでいなかった

          • 適切な作業環境の設備や動線が十分に整備されていなかった

        • 意欲低下

          • 機械化による単純作業の増加に伴い労働者の熟練が不要になったことで、労働者の意欲が低くなり、生産性向上への意識が希薄だった

      • 労働者の不満の高まり

        • 賃金

          • 機械化の進展により、熟練労働者が不要になり賃金が低下した

        • 労働時間

          • 工場の労働環境が劣悪で、長時間労働を強いられていた

        • 使用者との対立

          • 労働者の権利が守られず、使用者側に従わざるを得なかった

          • 労働組合の結成運動が活発化し、労使の対立が先鋭化した

          • 急速な産業化に伴い、格差が生まれ、社会的な不満が高まった

    • →テイラーはこうした状況を改善すべく、科学的管理法を提唱した

    その結果どうなった?

    • 生産性の大幅な向上

      • 作業の標準化と合理化で、ムダな動作や時間が排除された

      • 公正な報酬制度で、労働者の意欲が高まり生産性が上がった

      • 生産工程の効率化が進み、製品の大量生産が可能になった

    • 労使関係の一時的な改善

      • 科学的データに基づく公平な労務管理で、労使の対立は和らいだ

      • 労働者の要求を一定程度受け入れたことで、ストライキなども減少した

      • しかし根本的な課題は残り、後に再び対立が表面化することになる

    • 労働環境の一部改善と新たな問題の発生

      • 作業動線の改善や安全対策の強化などで、一部環境は改善された

      • しかし単純反復作業が主流となり、労働の非人間化が進行した

      • 職場の人間的なつながりが希薄になるなど、新たな問題も表れた

        • 労働者の権利や発言力の確保

          • 科学的管理法下でも、労働者の権利や労働組合活動は十分に保証されていなかった

          • 使用者側の一方的な決定に従わざるを得ない状況が継続していた

        • 労働環境の根本的な改善

          • 作業の合理化は進んだものの、過酷な労働環境自体は大きく改善されなかった

          • 長時間労働、低賃金、危険な作業環境などの問題は残り続けていた

        • 労働の人間性・創造性の軽視

          • 効率性のみを追求した結果、単純反復作業が蔓延し、労働から人間性や創造性が失われつつあった

          • 労働者の疎外感は高まっていった

        • 経営側の専横と搾取体制

          • 使用者側が科学的データを根拠に一方的に労務管理できる体制になり、労働者搾取の側面も強まりまった

この時代において、「生産性の向上」とは何であったか?

作業の徹底的な分析と標準化、人的・機械的資源の最適活用、報酬制度の改革などによって、時間当たり・人当たりの生産量や作業量を最大化すること

  • 時間の効率的活用による生産量の増大

    • 作業の無駄な動作を排除し、標準化された最短の作業工程を確立

      • 同じ時間で生産できる製品数や作業量が増える

  • 人的資源の最適活用

    • 作業者個人の能力を科学的に分析・評価

    • 各人の適性に合わせた最適な作業分担を行う

      • 全体として人的資源を無駄なく活用できる

  • 機械の有効活用による生産能力の向上

    • 機械化の進展に合わせ、人手と機械の役割分担を最適化

    • 単純作業は機械化し、人は監視・調整に専念

      • 機械の生産能力を最大限に活用できる

  • 報酬制度の改革による意欲向上

    • 作業実績に応じた公正な報酬制度を導入

    • 生産性が高ければ高い報酬が得られるインセンティブ

      • 従業員の意欲を高め、主体的な生産性向上を促す

事例

フォード自動車

引用元:https://business.nikkei.com/atcl/NBD/15/041800014/081600019/
  • 概要

    • フォード自動車の創設者ヘンリー・フォードは、テイラーの科学的管理法を高く評価し、フォード生産方式の基礎理念とした

    • フォード工場では移動式組立ラインを導入し、分業化と標準化された作業を徹底することで大量生産体制を確立した

  • 導入によりどうなった?

    • Before

      • 従来の職人的な組立作業が中心で生産性が低かった

      • 製品のバリエーションが多く、大量生産を行えなかった

    • 変えたこと

      • 作業の分業化

        • 移動式組立ライン(フォード式生産ライン)で、作業を細分化された単純作業に分割

      • 作業の標準化

        • 各作業工程の最適な標準動作を確立

      • 動作の無駄削減

        • 標準動作から非効率な動作を除去

    • After

      • 反復作業による生産効率の大幅な向上

      • 製品の画一化と部品の共通化で大量生産体制が実現

      • 賃金アップで従業員の労働意欲と定着率が向上