去年の話になるけど2023年のWorld Baseball Classic (WBC) は良かった。何が良かったって、僕が思うのは「アメリカをやっつける」のビジョンからの圧倒的逆算と、かつてなく若いチームの相乗効果。とてつもなく美しかったそんな光景の中心に大谷と共にいたのがダルビッシュだった。今更言うまでのことでもない。
WBC日本代表に密着したドキュメンタリー『憧れを超えた侍たち』には、あらゆる選手を引き寄せるダルビッシュの姿があった。NPBのトップの投手たちが集まる中で、誰もが「ダルさん、ダルさん」と慕い、「ダルさんと話したい」と言う。ダルは言葉とボールのやり取りを通じて、そんな一流投手のただでさえ高い天井を次々にバリンバリンと割っていく。そして若侍たちは、その天井の外にある新しい景色を目にする。
この映画が公開された6月、仕事での自分は一回り近く離れた新入社員の成長を支援する立場にあった。その「成長」にも色々あるのだけど、ソフトウェア技術者として、教え、背中を見せるという立場での自分は、何かと身に余る言われ方もしたことも何度もあった。ハングリーな若者に囲まれて、知ってることで良ければ教えるよ、という姿勢で質問攻めにあう日々だった。
そんな自分が『憧れを〜』のダルビッシュを見て「自分を重ねた」と言ってしまうのはおこがましいにも程があるし、自分はMLBにあたるような世界最高峰の舞台で戦った経験を有していると言うつもりも全く無い。けれど、自分の置かれた場所で、自分のできる範囲とスケールで、ああやって憧れられている限りは、自分からその舞台を降りちゃうのも失礼なんだな、と思った。
スクリーンの中でも、Youtubeの画面の中でも、Twitterを通してみても、ダルはいつも等身大で、むしろ相手の歳やキャリアに関係なく「自分も教えて貰う立場だ」と言うことをためらわない。偉ぶることが全く無いだけでなく、自らに憧れを抱いてやってくる周囲から逃げることもしない。ただ、その大きな背中をそのまま見せているだけ。僕はそんな姿に少し憧れを覚えたし、新しい季節も自分のできることをやろうかな、と改めて思った。