ヴィクトリアンな消火器。イラストレイテド・ロンドンニュース1886年6月19日号掲載の商品広告より。火事だ!の声を聴いたら、昔の手りゅう弾型のガラス瓶をマラカスのようにつかんで火に投げつける。するとガラスが割れて中の液体が気化し、火を抑え込んで消す、というふれこみだ。
1880年代ごろ~1900年くらいまで、ヴィクトリア女王の宮殿を含む多くの場所に設置されていたという。迫真の広告イラストを見るといかにも効きそう???ではある。でも実をいうと中にはいっているのはほとんどがふつうの塩を溶かした水で、9%ほどの塩化アンモニウム、その他の物質が少量含まれ、ビールジョッキ1杯分くらいの水をえいっとかけた程度の効果しかなかったようだ。もっと大きいバケツで水や砂を大量にかけたり、燃えにくい布を被せたりしたほうが多分ましだったことだろう。
あと、上の広告イラストは、日本風の紙の提灯が落下して燃え移ったというストーリーのようだ。ちょうど1880年代中ごろのロンドンでは、歌劇『ミカド』に浮世絵に扇に着物、ロンドン日本人村と、日本文化がブームになっていた。紙のランタンって燃えやすそう……お洒落だから飾りたい……でも怖い……というような、異文化への好奇心と不安をくすぐった広告に見える。
イギリスでナショナルトラストのお屋敷をめぐるとたまにこの「スター・グレネード」の青い瓶に遭遇する(写真はCalke Abbey 2010年訪問)。「ヴィクトリアンっぽさ」の再現演出かもしれないし、火事が怖い主人が大量設置したものがそのまま忘れられていたのかもしれない。いずれにしても出会うと「おっ、久しぶり」みたいな気分で嬉しくなる。実際の役に立たなさと、忘れ去られ加減も含めて好きなアイテムだ。青くてきれいだしね。