その前に、こちらの静かなインターネット、使い始めて間もないけれど、使い心地がとってもいいです。
通すがりさんがコメントくれるの、本当に嬉しいです。
見ても見なくてもコメントもしなくてもいいけど、誰かが見てくれたのがたまにそっとわかるのがとてもいい。もともとXでも壁打ちが得意なので、距離感が一番すきかもしれないです。
さてさて本題に入りましょう。
PERFECT DAYS 公式サイト (perfectdays-movie.jp)
※作品に関してネタバレを大いに含むためご注意ください
2023年の末から上映開始した本作品。ネットでの評価が高かったため、映画館で観るべき映画だなと思い、レイトショーで行ってきた。主演は大好き役所広司。
あらすじ
東京スカイツリーのそばの古びたアパートで生活する、トイレ清掃員で無口な男、平山(役所広司)が過ごすなんてことない毎日。ただただ、真面目な中年男性の毎日が繰り返される。あっという間に終わる映画ではない。単調で地味な画が続く。
役所広司が喋ったの、上映開始からどれくらい経っただろうか、なんて考えていた。笑
まだ辺りが暗い時間に起きて、日課のルーチンをこなし、仕事をして帰ってくる。自転車で銭湯へ行き、銭湯の帰りには行き慣れた駅下の居酒屋で夕飯兼晩酌をして、帰宅後読書をして眠りにつく。その繰り返し。音や映像は同じような場面が続く。
もうこの平山はこの生活をおそらく何十年も続けているのだろうなと推測できる。
個人的に、映画って、その人の人生を覗き見させてもらえるものだと思っているんだが、まさにその通りの映画だった。
ありのままの飾らない、なんてことない毎日
私自身、同じ毎日を過ごすことがあまり得意ではないため、毎日に変動のあるシフト制の仕事が好きだ。毎日同じ時間に眠られないし起きられない。どうしても、同じ時間に同じことをするのが苦痛な人種だ。
その点、この男は毎日同じ生活をしている。おそらく、平山のように、朝起きる時間や出勤時間や眠る時間が一定の人の生活の方が、一般的には多いのかもしれない。
観ながら、自分とは違う生活スタイルだな、とは思いながらも、就寝前の読書は私もやるなあ、この時間の読書、本当に幸せなんだよな。とか自分と重ね始める。
観葉植物への水やりは私も好きだ。誰にも邪魔されず、趣味に没頭している時間も好きだし、出勤時にお気に入りの曲でテンションを上げるのも好きだ。ああ、似てる。みんな、こうやって生活を営んでいるんだ。
ちょっと嫌なことがあったり、ちょっと嬉しいことがあったり。無性に腹が立ったり、泣きたくて仕方がない日があったり。
それでも毎日、自分の機嫌を自分で取って、ちょっとでも前向きに自分の人生を楽しくしようと、みんな頑張っているのだ。
みんな、何かしら抱えて生きてる
途中、平山という男がおそらく貧乏な家庭の産まれではないんだろうなということを推測できる場面がある。父親がとても厳しい人だったのかな、自分で選んで、この生活をしているんだろうなと思った。
結局最後まで、平山という男が抱える悩みも、葛藤も明らかにされることはない。無口な平山は、教えてくれない。けれど、みんなそうなんだ。誰も知らないところでみんな何かしら抱えてるんだ。そしてそれを抱いたまま、誰にも明かすことなく生涯を終える人だっているんだ。
変化していくもの
演歌歌手の石川さゆりが演じた、居酒屋兼スナックのママのぽつりと発した
「どうして変わってっちゃうんだろうね」
が妙に刺さった。あまりにも切ない言い方だった。後々その台詞の意味もわかるんだけれども。
変わってほしくないと願っていても、絶対に変化していくものがある。どうにか毎日を楽しく送れるようにそれでも私たちは努力するのだ。みんな、そうやって生活を営んでいるんだ。
私自身、今を精一杯生きるタイプで、よく言えばそうなんだが、悪く言うと先のことを考えていない。この映画を観て、私が60歳、70歳になったとき、私もこういうふうにひとりで生きているんだろうな、なんて思った。結婚願望も無ければ、子供が欲しいとか、誰かと生活したいというものも一切ない。その価値観が根付いたのは、幼い頃の家庭環境が理由ではあるんだけれど。
先のことはわからないけれど、その歳になったときにひとり、寂しいだろうなあ。でも平山のように、毎日の中にちょっとした楽しみを見つけながら、なんとか楽しく生きていたいな。平山が、そう思わせてくれた。
帰り道、音楽を聴かずに空を見上げて帰りたくなる映画だった
ただただそうやって、平山という男の繰り返される毎日やちょっとした出来事を観ながら、ところどころで涙がこぼれる。
三浦友和が演じるある男とふたり、缶ハイボールを飲むシーンは泣けた。明確に理由を説明できない涙だけど、ぽろぽろと溢れてしまった。
私がもう少し歳を重ねていて、平山に近い歳の人間だったならもっと号泣していたような気がする。大人の二人が会話する、良いシーンだった。
ラストシーンは、改めてまた役所広司という俳優の凄さを目の当たりにした気がした。すごいんだわ、この人が。
あのラストシーンで、また涙がじわじわと溢れた。自分の中でラストシーンを反芻していたらエンドロールが一瞬で終わった。
普段移動の時はイヤフォンが無いとダメなんだけど、帰り道は、なんだかイヤフォンを手に取りたくなくて、久しぶりに冬の風の音を聞きながら、夜空を見上げて歩いて帰った。
ああ、月がきれいだな。いい映画だった。